豊島逸夫の手帖

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量的緩和解除の影響

2006年3月1日

いよいよ量的緩和解除が秒読み段階となり、その影響に関する質問が増えたので、要点をまとめてみよう。

-大局観としては、脱デフレ。そうなると、マーケットが次に心配し、先取りを試みるのがインフレ。景気循環論の典型である。この場合のインフレ懸念とは、原油高騰によるコストプッシュ型ではなく、通貨供給量増大によるマネタリーインフレである。(これについては、週刊エコノミスト誌2005年12月6日号寄稿にて詳述した)。従って、"鳥の目"で経済の大局を見れば、インフレヘッジとして金は買いである。

-しかるに、"魚の目"でマーケットの流れ(潮流)を見れば、金売り材料ともなる。いよいよ日米利上げ同時利上げモード突入となれば、金利を産まない金にとっては、不利な状況だ。日本の金利水準は未だゼロに近いレベルだから、低金利時代の終焉というには早すぎるが、最近、欧米で使われる表現に slow end to easy money =過剰流動性の緩やかな終焉、という言い回しがある。これが最もマーケットの実感に近いだろう。そこから派生する現象は、投機資金収縮、商品市場へのマネーフロー撤退。象徴的には、キャリートレードの解消である。平たく言えば、低金利でカネ借りて、相場を張る手法が、儲からなくなるから、手を引くということだ。そこで、ヘッジファンドなどは、Good Bye, Gold という姿勢に転じている。(でも、それで、どこへ行くの、というのが筆者の素朴な疑問なのだが。あったら教えて欲しいね。)

-更に、量的緩和解除は外為市場で、ドル安、円高モードを形成しつつある。円金利上昇=円買いだし、ドルの視点から見れば、市場のテーマが"日米金利差"から"双子の赤字"という構造要因に再シフトするきっかけとも読める。

ドル安、円高となれば、海外金上昇が円高により相殺されるという従来お馴染みのパターンとなる。直近が正にその様相を呈してきた。海外は560ドル回復(本稿執筆時点3月1日朝7時スポット)。けれども、昨年末のような、海外金高+円安のダブルエンジンの推進力は無い。従って、世界を騒がせたTOCOM(東京工業品取引所)の買いも目下は腰が引けている。

一昨日、ロイター シンガポールの記者から電話取材があって、日本の現物買いも540ドル割れ狙いが多く、当面様子見(これ現場の"虫の目")と答えたら、Japanese buyers hold off. という見出しとなり伝わった。それを読んで、海外の友人たちは、TOCOM(先物)も現物買いもごっちゃ混ぜにして、日本は模様眺めと書いている。ま、いいか。

最後に、欧米金市場の近況。

一言で言って、バーナンキの利上げ継続の可能性の影に怯えつつ、サウジ油田爆破未遂とかイラク内戦化という地政学的リスクを突きつけられ、気味悪くてショート(空売り)もできないという状態。強弱拮抗するせめぎ合いの中で、昨晩は、ドル安=金買いという昔使い古した講釈を持ってきた。ドル高になると、従来の金ドル逆相関は崩れたと言い、ドル安になると関係復活となる。なんとも勝手な解釈だが、それがマーケットというもの。上げたい時は、何でも強めの材料に貪欲に食らいつき上昇エネルギーの炎で吹き出す"ゴジラ相場"と以前も書いたよね。これも、ま、いいか。

コメント風にまとめれば、当面は550-570のレンジ内での調整ということになろうか。皆が"下がったら買う"モードで待っているので下がりきれない。はっきり言って、実に居心地の悪い高度で、宙吊り状態なのだ。

2006年