豊島逸夫の手帖

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82年ぶりの低水準-南アの金生産量

2006年3月14日

毎日の相場を追っていると目立たないので、つい見落としがちな要因がサプライサイド(供給)の状況である。地味だが、ボディーブローのようにジワジワ影響を与えている。
特に、最近の話題は世界最大の生産国南アの凋落ぶり。

2005年の金生産国トップ5を最新のデータから拾ってみた。
1.南ア 295トン
2.豪 261
3.米 259
4.中国 222
5.ペルー 198

南アが1925年以来という300トンの大台割れとなった。1970年のピークには年間1000トンを超え、その後も600トン以上のダントツ世界一の座を保ってきたことを思うと、隔世の感がある。

世界の金生産分布も群雄割拠というか、ドングリの背比べ状態になってきた。このままでゆくと、ひょっとすると、世界一の座も米とか豪に奪われるかもしれない。

なんといっても、金は有限の資源であり、南アも資源の壁にぶち当たっているという事情。地下数キロを掘らないと金鉱脈に当らないのだ。

次にランド高。金価格高騰のなか、欧米の機関投資家の一部は金を買わずに、資源国通貨としての南アを買ってきた。その結果としてのランド高が、南ア国内金価格のアタマを押え、国内金鉱山の経営を圧迫しているという皮肉なサイクルとなっている。国際金価格が上がっても、南ア鉱山会社首脳の顔は冴えない。社内はリストラの嵐である。そうなると、M&Aによる業界再編にも拍車がかかる。その波が、効率化追求のための容赦ない不採算鉱山の閉鎖を生み、更に生産量が落ちこむという循環もある。

一方、南アに変わって、生産が伸びているのが、中国、南米、そしてインドネシア。これらの国の共通の特徴は、埋蔵量が豊富なのだが、これまで企業化が遅れ、パパママの山師(南米ではグランペイロと呼ばれる)による採掘に頼っていた。そこに目をつけたのが、南アの金鉱山。自国の金生産に見切りをつけ、新たな生産国に、長年培った鉱山技術と調達資本を武器に乗り込んだ。

その結果、従来の金生産大国の減少分を、新興生産国が埋めるという構図になっている。世界全体の生産量としてはトントン。価格が急騰する過程で、殆ど増えてこなかった。

とはいえ、さすがに、ここまでくると、新規開発案件も出始めている。金価格高止まりが見込まれるなかで、いくらなんでも、グローバルな生産量が減少するということはないだろう。2010年にかけては緩やかな増加に転じると思われる。但し、それが、中国、インド、中東の目覚しい需要の増加を満たす量に達するとは考えにくい。80年台には金価格高騰が供給過剰を招いたが、21世紀の需給構造は全く異なる様相を見せている。

2006年