豊島逸夫の手帖

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急ぎばたらき

2006年5月25日

この24時間で36ドル下げ、640ドルを挟む水準。瞬間的に5ドル以上値を飛ばすことも頻繁である。業者間売買のスプレッド(売買値差)も通常の3-4倍に拡がっている。月末控えて、プロのディーラーもまともに参加していない。

外電のヘッドラインもコモディティーのクラッシュだとかmeltdown(崩壊)だとか、これで金相場の循環的上昇トレンドは終わったとか個人の金投資家を震撼させるような報じ方が目立つ。まぁ、書いてナンボの世界だろうが、こういう時こそ一歩引いて冷静に見ることが重要だ。木を見て森を見ずの愚は避けよう。岡目八目とはよく言ったものだよ。そういう筆者だって、ディーラー辞めてから相場がよく見えるみたいだねと、ベテラン日経記者に言われたことがあるもの。

金の長期上昇トレンドを形成してきた"7つの複合構造要因"(※)は全く変わらない。それを囃してどさくさに紛れ(というかどさくさの状況を演出して)一儲けを目論んだ"急ぎばたらき"の一団が、サッサと帰り支度を始めただけである。(鬼平犯科帳のイメージだな)

この一団が去れば、これまで息を潜めていたお江戸の町民たちもこわごわ町に出てくる。なんせ、1500兆円も蓄えている町民集団なのだから。

話題は変わるが、WGC/GFMSが共同で2006年1-3月期の最新金需給を発表した。

宝飾需要中心に実需は高値の影響で急減。機関投資家のETFなどの買いが急増。新産金が徐々に増加。ヘッジ売りは大幅な買戻し。中銀売却は急減。リサイクル、スクラップは急増とかなりドラマチックな変動が見られる。(本欄を毎回読んでおられる方には目新しいハナシではないが、これまで書いてきたことが統計的に裏付けられたわけだ。)仔細は週末に纏めて別途お伝えしよう。


金価格が上がっている7つの理由。

1.原油高とインフレ懸念
70年代に二度のオイルショックを経たインフレ基調で金価格は高騰。史上最高値を記録しました。その連想から、原油など天然資源価格が上昇するいま、インフレヘッジとして金が注目されています。

2.有事の金
いまだ不透明なイラク情勢に加え、新たにイランの核保有問題、そしてパレスチナ問題が深刻化。中東地域における地政学的リスク(火種)がますます高まり「有事の金」人気が加速しています。

3.ドルからユーロ、金へ
米国の「双子の赤字」という構造問題への懸念から、世界的に投資マネーのドル離れが進行中です。まずユーロへの分散シフトを経て、現在では日本株、そして金への運用が拡大しています。

4.アジアと中東のマネー
中国とインドは歴史的にも文化的にも金選好度が高いことで知られています。また原油高で潤った中東のオイルマネーも金へのシフトを開始。世界的に金需要の伸びが見込まれています。

5.中央銀行の金購入
90年代は欧州中央銀行の金売却が金価格を押し下げました。しかし現在では、対外準備資産として金が再評価され、ロシア、中国などの国々で金購入の可能性が指摘されています。

6.信用リスクの増大と金
日本ではライブドア事件が「紙の資産」の信用リスクを顕在化させました。米国ではGMの経営不安や住宅バブル崩壊が危惧されています。「実物資産」である金への回帰が起きています。

7.年金基金の参入
金の現物に投資するETF(上場投資信託)が開発され、長期運用を旨とする欧米の年金基金などが積極的に金購入に動いています。運用資産のリスクヘッジとして金が選択されているのです。
 
2006年