豊島逸夫の手帖

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マクロ経済の潮の変わり目

2006年3月6日

金価格は銀の連れ高というカタチで先週は急騰したが、新鮮味ある独自の要因に欠け、上放れできない。550-570ドルのレンジから抜け出せないのは、グローバルなマクロ経済の流れが方向性を欠き、決定打が見出せないことにあるようだ。つまり、インフレ懸念という金にとってのフォローの風は吹いているのだが、世界同時利上げモードという逆風も徐々に勢いを増している。ゴルフに喩えればグリーン上の風が巻いているのだ。だから、NY株なども気迷い症状から抜け出せない。

その意味では、今週は、大きな潮の変わり目を予感させる状況ではある。国内では、いよいよ水曜日の日銀金融政策決定会合にて量的緩和解除についての方向性が定まるか否か。この影響については前回に詳述した。

米国では、金曜日の雇用統計が注目材料。失業率4.7%、新規雇用増20万という数字が判断の分かれ目となりそう。雇用好転継続となれば、3月以降も利上げ継続観測優勢となるので、金にはアゲンストの材料と解釈される。欧州からも利上げの感触が伝わるなかで、三極同時利上げモードとなると、金にはきつい。570ドルを決定的に突破できない所以である。

とはいえ、量的緩和解除という措置は、平たく言えば、日銀が見せ金をこれみよがしに積んで見せて、カネはナンボでもあるぜと安心させるアナウンスメント効果を狙う手法ゆえ、その見せ金を引っ込めるからといって、即ゼロ金利から脱却ということにはならない。歴史的低金利状態は続く。

米国経済にしても、バーナンキは利上げ=オーバーキル即ち、締め過ぎのリスクも考慮せねばならず、舵取りは困難を極める。その間隙を突くようにインフレ懸念は頭を擡げる。

従って、利上げという材料が金の上昇トレンドが転換するほどの決定打とはならないだろう。上げのスピードが緩まると見るべき。

なお、中国経済にも注意。全人代の5年計画で経済成長7.5%という数字が明示された。ここで、一番のポイントは、現状の10%強というレベルにブレーキをかけ、7%台という巡航速度へ落としてゆく過程である。ブレーキを踏みすぎると7%では止まらないハードランディングとなりかねない。ここでも、バーナンキと同じく、ソフトランディングを達成できるか否か舵取り技術が問われる。7.5%成長は立派な数字だが、その経済の渦中に身を置くと、高速道路(10%)から一般道路(7%)へ降りたときに錯覚する速度停止状態に似た感覚も生まれるものだ。

ハードランディングの匂いが強まると、コモディティー全体が売りに見舞われる。2年前のゴールデンウイーク直前に中国首脳の引き締め発言でヘッジファンドが一斉に引いた事例もある。戦艦大和のような巨艦になると方向転換も楽ではないのだ。とはいえ、中国経済の絶対的規模が巨艦であることには変わりはない。金需要も長期的増加基調のなかで、成長のペースが緩むこともあると理解すべきだろう。

最後に、銀相場について一言、ETF導入が囃され、投機買いを誘っている。でも、金と異なり、銀市場の規模は小さい。そこにETFを通じて年金資金などが流入すると、ボラ(価格変動性)のみが激増するという懸念が指摘される。たしかに、金魚鉢に鯉を放つようなもので、鯉が暴れて鉢から脱出した後には水(=市場流動性)が激減するというリスクがあろう。金自体の材料に新鮮味がなくなると、銀の金魚鉢から溢れた水が金市場にも撥ねかかる現象が時折みられることになりそうだ。

2006年