豊島逸夫の手帖

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06年4-6月期 世界金需給レポート

2006年8月17日

第2四半期の金需給データがGFMS、WGCにより発表された。今回は、日経夕刊(8月14日)の"明日の勘所"でも詳しく紹介されたが、高値圏における最新のファンダメンタルズを知るうえで非常に興味深い内容である。

結論としては、高値圏で特にインド、中東の宝飾需要は落ち込み、リサイクル還流も急増しているが、中銀売却がかなり減少し、さらに、ヘッジ売りの買戻しが"需要"要因として大きく寄与したこと、そして、ETFが順調に伸びたことで相殺され、需給バランスは悪くない。供給過剰、需要減退により価格上昇トレンドがピークアウトするというようなシナリオが現実的ではないことを裏付けている。

以下は、原本のデータと、コメントの要約である。

  2005年 Q1'05 Q2'05 Q3'05 Q4'05 Q1'06 Q2'06 % ch
Q2'06
vs
Q2'05
% ch
H1'06
vs
H1'05
供給サイド
  新産金 2,520 579 611 654 677 582 625 2 2
  生産者ヘッジ -113 -22 -75 -21 4 -142 -157 ... ...
鉱山供給計 2,407 557 536 633 681 440 468 -13 -17
  公的売却 661 268 144 86 163 98 53 -63 -63
  中古金スクラップ 886 204 198 210 274 271 310 57 45
供給合計 3,953 1,029 877 929 1,118 810 832 -5 -14
需要サイド
  宝飾用 2,709 707 774 659 569 532 541 -30 -28
  工業用・歯科用 420 100 111 106 104 108 109 -2 3
加工用計 3,130 807 885 765 672 641 650 -27 -24
地金・金貨 個人投資 412 130 120 93 69 84 101 -15 -26
その他 個人投資 -22 -10 -9 -8 4 5 -11 ... ...
ETF等 208 89 -2 38 84 109 39 ... 70
需要合計 3,727 1,016 995 888 828 838 780 -22 -20
 
供給と需給のバランス 226 13 -117 41 289 -28 52 ... ...
 
ロンドン午後($/oz) 444.45 427.35 427.39 439.72 484.2 554.07 627.71 47 38

(注)
鉱山生産者ヘッジ:マイナスとなっているのはネットで買い戻しのほうが多いため、実質的には需要項目となっている。
最右欄の%は、2005年4-6月期との比較と、2005年、2006年1-6月期の比較である。

供給サイド:
― 新産金は625トン。前年同期比2%アップにとどまる。サイクロン多発などで落ち込んでいた豪が回復したが、インドネシアのグラスバーグ鉱山の生産が減少した。
― 鉱山生産者ヘッジの買戻し(マイナス)は、予想を上回るハイペースが続き、157トンを記録。(前年同期は75トンであった)。バリックがプラサドームを吸収合併したことによる93トンのヘッジ買戻し。そして、アングロゴールド・アシャンティも31トンのヘッジ買戻し。なお、バリックのヘッジ買戻しは、年間予定量を前倒しで実行したもので、その結果、年後半にはヘッジ買戻しのペースも減速の見込み。
― 公的売却(中央銀行の金売却)は53トン。63%減。8月4日時点までの第二次ワシントン協定2年目の累積売却量も335トンにとどまり、年間売却枠に165トン足りない。未発表の売却もありうるものの、9月26日までに年間500トンの枠を使い切る可能性は低い。その未消化分は翌年度への繰越はできない取り決めになっている。
― 中古金スクラップ(スクラップ還流)は、310トン。57%増。中東、アジアで顕著であったが、インドは通常のペースで特に増加は見られなかった。これは先高感が強かったためと見られる。

需要サイド:
― 宝飾用需要は562.5トン。24%減。高値に加え、ボラティティリティー(価格変動性)が大きかったことで消費者が警戒した。国別に見ると、インドが135トンで、43%減。中東は78トンで26%減。中国は54.5トンで2%減にとどまる。
インドでは、特に農村部の付加価値の低い宝飾品が価格に敏感ゆえ落ち込んだ。それに対し、都市部では、デザイン性の強い宝飾品中心で、マクロ経済好調の恩恵にも潤い、それほど減退していない。
中東では、株式暴落による負の資産効果が効いた。特にサウジの打撃が大きい。UAEは観光収入が好調で、かなり相殺。
中国がそれほど落ち込んでいないのは、先高感が強いと、強気に更に買い増すという国民性によるものだろう。価格変動性に対する耐性も強い。農村部の伝統的24Kジュエリーに加え、都市部での18Kのイタリアンデザインの商品が、高価格にも影響されにくいセクターである。地域別の温度差も見られる。南部、東部が減少傾向に対し、北部は健闘。
なお、米国も54.2トンで10%減。原油高騰、住宅市場減速、個人債務増加などが消費を抑制し始めている。さらに、金という素材価格が高騰すると、メーカーのリース使用枠や、流通業者の在庫枠がドル建てで設定されているので、末端小売販売量より敏感に金消費量を抑制する傾向もある。
― 投資需要は、伝統的地金、金貨等が101トンで15%減。特にフランスそして日本などの成熟国において大量の売り戻しが見られた。対して、ETFは高値圏でも39トンのネット増。6月末時点で、カナダの二つの金投資信託の保有量を加えると、残高が535トンに達する。それが8月9日時点ではさらに555トンまで増加。第2四半期におけるETF残高の推移は示唆に富む。
金価格700ドル示現時には、ほとんど増えず。5月以降の投機筋撤退、価格急落時は、ほとんど減らず。ETFの買いが、長期的観点に立つことが確認された。したがって、第2四半期の金価格乱高下の震源地は、ETF以外の、特にOTC市場における商品バスケット型投資と見られる。(金取引所経由の先物取引の影響は限定的であった。) 期の前半は、インフレ懸念、ドル安、地政学的要因などで買い進まれたものの、5月中旬以降は、投資家のセンチメントが劇的に変化。ポジションも逆転し、ストップ売りも重なり、下げが加速した。
しかし、今後の展開に関しては、ファンドや仕組み商品(ワラント、オプション)なども含め、投資家の関心は高まっており、政治経済的環境も金にとっては追い風となっており、ファンダメンタルズも良好なことから、金投資の分散効果も強く認識されてゆくと見られる。
― Industrial & dental(工業用需要)は109トンで2%減。中国、台湾のセミコンダクター需要が好調だったが、インドの金工芸品需要は高価格の影響で減少。デンタル関係もドイツで歯科医療の健保適用が制限され、減少傾向続く。なお、電子工業関係も、高値が続くと、代替素材の開発や、素材使用抑制の動きが出るだろう。

2006年