豊島逸夫の手帖

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金 大幅上昇の年明け

2006年1月4日


最近の金価格は実に立ち直りが早い。12月に東京発の売買攻勢のあと490ドルまで急落したのもつかの間、新年3日のNY市場では前日比18ドル高の534ドルまで急騰した。下げは確実に拾われる。すかさず買い上げられる。


筆者が年金などの買いのインディケーターとして最近重視している統計に、金ETF残高があるのだが、それが12月の急落後にも着実に増えてきている。3日現在、337.14トン。これはNY、ロンドン、パリ、シドニー、ヨハネスブルグに上場されている金ETFの総残高である。(内訳はNYSE 263.28トン、LSEとユーロネクストパリが58.38トン、ASX 8.41トン、JSE7.07トン)。一ヶ月前は300トン以下、12月19日時点では307.90トンであったから、堅実な伸びを示している。ちなみに、337トンという需要量は中国の年間金需要量の1.5倍にあたる。


さて、新年のマクロ市場環境は、ドル安、円高、ドル金利頭打ち気味、原油高。いずれも、金にとっては追い風である。ドルとの連関は薄れつつあるが、 最近の特徴は、従来の金安材料であるドル高は無視し、ドル安に振れると途端に材料視する傾向だ。昨晩のNYの急騰の背景には明らかにドル安がある。 2006年の展望でも述べたが、ドル利上げが打ち止めに近づくと、為替のテーマも、金利差要因から双子の赤字という経済構造要因に移る。その傾向が既に見える。


なお、年明け早々飛び込んできたロシアのウクライナ経由天然ガス供給停止措置のニュースは間接的だが、要注意材料である。EUとしては、まさかと思っていた強硬措置が実行されたことにかなり衝撃を受けている。原油高に加えて、英国などは今やエネルギーの5割近くを頼る天然ガスの供給に不安が生じたことで、危機感は強い。ロシアはあからさまに原油、天然ガスを外交取引のカードに使いはじめた。旧ソ連諸国、東欧、そしてバルカン半島諸国がエネルギー供給を人質に取られ、ロシアという熊さんにもてあそばれている。これは、(中東に加え)今年の地政学的要因の大穴になるかもしれない。この程度はプロはすぐに読み込むから、夕べのNYの急騰も、これを先取りした動きとも見れる。


私が欧州の年金資産運用担当者だったら、将来のエネルギー危機に対するヘッジとして金を組み込むという発想をすると思う。金ETFの成長とウクライナの天然ガス問題はここでリンクするのだ。


最後になりましたが、あけましておめでとうございます。


筆者は正月を香港で迎え、今週末は上海出張と、今年も金に関してはアジアの年を予感させる仕事の幕開けです。昨年末は、年最後のセミナー講演終えたら、緊張感が一気に緩み、不覚にも風邪ひいてしまい、サイトのコラムも締めを書かずにそのまま終えてしまいました。今年は、昨年にも増して波乱の年になりそうですので、読者の皆さんと一緒に健康にだけは注意して気張ってゆきたいと思います。

2006年