2006年6月8日
2週間ほど前にWGC/GFMS共同で発表された最新金需給動向の詳細を纏めると申し上げて、そのままになっていましたね。以下に改めて要約を記しておきます。なお、今日(6月8日)日経CNBCの夕方5時からナマ放送で、同7時から再放送で出演しグラフなど使って解説します。
宝飾需要が22%減少したが、機関投資家部門の金需要が急増し、26年ぶりの高値をつけるに至った。ETFだけで109トンの純増を記録している。需要全体としては16%減の835トン。
特に大手年金基金の商品分野への参入が目立った。欧州ではブリティッシュテレコムの年金運用機関であるヘルムズ投資顧問、サンズベリー(大手スーパー)、米国ではカルパース(カリフォルニア州職員共済年金基金)、米国ネッスルなど。
需要の国別動向としては、まずインドが27%減の145トン。都市部の中産階級を中心に価格上昇による宝飾買い控え傾向顕著。但し、富裕層や豊作に潤う農村部はそれほど減らず。中東も25%減の80トン。価格上昇に加え、株式暴落による負の資産効果により富裕層などの宝飾購入後退。対して、中国は増減0%の76トン。ここではチャッカムと呼ばれる低付加価値の宝飾品が資産目的で購入されるが、それが金価格高騰に刺激され増え、本来の装飾用ジュエリー需要の落ち込みをカバーした図式である。
供給サイドにも大きな動きがあった。
まず、新産金が5%と徐々に増えてきた。新興産金国中心に価格上昇に刺激され開発された鉱山において少しずつ生産が始まった。次に、ヘッジ買戻しが160トンと急増(前年同期で22トン、2005年全体でも131トンであった)。これは、プラサを買収したバリックが世界一の金鉱山に踊り出たのだが、そこでバリック社の方針としてプラサの既存ヘッジ売り契約を177トン買戻したため。更に、中央銀行の売却が116トンと57%も急減した。これはワシントン協定内でドイツが金売却を決定するか否か不透明ななかで他の協定参加国が売却を実行できなかったため。ドイツが売るという判断に傾けば、年間500トンの売却枠がイッパイになるからだ。結果的にはドイツは売らない方の決定をしたので、第二四半期以降、他の協定参加国がドイツの売却枠を使うことになろう。つまり、中銀売却の急減はタイミングの問題で一時的と思われる。最後に、リサイクルが305トン、51%の急増を見せた。遂にというか、昨年までは価格上昇にもかかわらず先高観強いなかで売り戻しが先送りされてきたのが、値頃感から徐々に始まったようだ。中東において特に顕著。
以上の内容だが、筆者が最も注目する点は、ヘッジ買戻し急増。この傾向は今後も価格が下落するたびに繰り返されると見られ、下値を支える要因として作用しそうだ。要は、依然含み損を抱えるヘッジ売り契約が残っている鉱山会社にとって見れば、価格が下がればやれやれと買い戻しに入る絶好の機会となるわけだ。鉱山会社が(特にヘッジ部門だが)金価格が下がるのを待望するという皮肉な結果となっている。業界全体では依然1500トンを超えるヘッジ売り残高が残っているのだ。これは、今後、新産金として採掘される生産量の1500トン以上は既に先物で(それも現在より相当安い価格で)売却済みということを意味する。その分、中央銀行売却やリサイクルが増えて埋め合わせないと需給はバランスしない(供給不足に陥る。)
目先、高価格圏での実需が後退していることが確認される一方で、サプライサイド(供給)要因は底が浅いことを強く示唆している。