豊島逸夫の手帖

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2007年 金価格見通しのポイント

2006年12月7日

クリスマスも近づき、足元ではぼちぼち年末調整売りなども出始めたところで(今年に限っては未だ未だ大晦日まで予断を許さないものの)、来年のマーケットに目を向けてみたい。

まずは本稿ではポイントをまとめてみる。

-マクロ経済的には、本欄で詳説してきた一兆ドルの臨界点の年。2006年も膨張が加速した中国外貨準備と米国経常赤字。2007年にいよいよ臨界点を迎える。人民元レート本格調整、非ドル媒体への分散。かたや米国経常赤字急増に関して米国内に切迫感はない。臨界点に達するまで痛みは感じられないからだ。結局はマーケットが自立的に国際的経済不均衡の是正を開始するだろう。つまりは為替調整=ドル安加速。代替通貨として金が公的、民間両セクターで買われるシナリオだ。キーワードは"ドル離れ"。

-もうひとつの臨界点。それは米国住宅バブル。これは、臨界点に達するまでにソフトランディング或いはハードランディング両方の可能性があるストーリーだ。前者ならば金は売り。インフレヘッジ、デフレヘッジどちらの金の出番もないシナリオである。後者だと信用リスクヘッジとして金が買われる(特に年金のヘッジ買い)。但し、米国経済が減速から失速となると、"米国が風邪ひけば他国は肺炎になる"の喩えもあり。特に中国経済減速などがヘッジファンドの金売りを招く可能性も。

-金利動向も重要。米国は利下げも視野に。欧州は利上げ余地残す。日本は緩やかな金利上昇。つまるところ金利差縮小。2006年は金利差要因でドルが買われたので、ここでもドル高トレンドは薄れる。

-インフレ懸念は、原油も勿論波乱含みだが、ドル安や累積財政赤字に発するインフレ懸念が2007年は台頭しそうだ。インフレ懸念の複合化とでもいえようか。

-地政学的要因は ずばりイラク。米国の出口政策模索続くが、結果は出ず。混乱がイラン、シリア、イスラエルを巻き込む地域紛争、且つ、イラク国内の内戦化の二重構造に悪化する。最悪は米軍撤退、イラク三分割。正に周辺諸国入り乱れての草刈場と化す。金市場では一時陳腐化したイラク要因の復活の年。

-ベビーブーマーのリタイアも始まる年。年金運用多様化に拍車かかる。ETFも大化けの予感。

-中国では民間金投資元年。2005年末に民間銀行に対する金解禁、2006年は金取引インフラ構築、そして2007年に本格的業務開始。金市場の中国要因はこれから始まる。

-供給サイドでは上位金鉱山会社がくっつく大型M&Aに注目。不採算鉱山は容赦なく閉山され、ヘッジ売りは縮小削減される。

-ヘッジファンドは、ほぼ3ヶ月サイクルで出たり入ったりを繰り返す。その度にリスクマネー撤退だ、復活だ、と騒がれるだろう。回転早くfast moneyとも言われる。ファーストフードとスローフードに喩えればslow moneyにあたるのが年金マネーか。じっくり時間かけて吸収する。

2007年はヘッジファンドによる売買が短期的価格変動性を増幅するなかで、年金、中国、インド、中東のマネーのドル離れがボディーブローのように効いて下値を切り上げる展開となろう。

2006年