豊島逸夫の手帖

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マーケットに異変の兆し

2006年11月21日

週末のフィナンシャルタイムズのマーケット面。
商品市場欄―原油価格下落によるヘッジファンド破綻の噂
外為市場欄―ヘッジファンド、原油市場の損失カバーのため、手持ちのドル買いポジションを売り手仕舞って益だし。
債券市場欄―ヘッジファンド破綻の噂で、米国債に"質への逃避"の買い

なんでもヘッジファンドのせいにするのかとさえ思えるほど。まぁ、アマランス破綻の前も盛んにヘッジファンド受難の時代とかいう噂が流れていたから、火のないところに煙は立たぬ、のかもしれないがね。

ただ、ひとつ言っておきたいことは、ヘッジファンドがどうなろうとマーケットのトレンドは変わらないということ。所詮3ヶ月サイクルぐらいで出たり入ったり(in and out)を繰り返している連中だから、基本的にゼロサムゲームだ。彼らには、既存のトレンド(上げでも下げでも)を増幅することしかできない。

さて、NY株はと見れば、まさにGoldilocks(ゴールディロックス)到来かといわんばかりの市場センチメントが支配している。原油安、インフレ懸念後退が消費にもプラスの資産効果を与えている。景気は過熱しているわけでもなく、かといって、失速の懸念も薄い。せいぜい減速が心配される程度。ハードランディングよりソフトランディングの可能性が語られる。

このようなnot too hot, not too cold熱すぎず、寒すぎずの心地よい状況の中では、金などのヘッジ資産の必要性も切迫感に欠ける。筆者がかねてから論じている"金の出番がない"シナリオなのだ。でも、Goldilocksというユートピアが長く続いた試しがないのも事実。微妙な経済のバランスの上に成り立っているから、バーナンキさんが舵取りを少しでも誤れば、経済は大きく傾く。

なお、プラチナ市場が荒れている。とにかくボラ(価格変動性)が半端ではない。例のETF導入の噂で24時間に150ドル近くも乱高下している。完全な仕手戦である。これまで出遅れ気味で動きのなかったことでプロにも油断があったのだろう。ショート(空売り)筋が締め上げられて(スクイーズ)いる。手元にないものを売る約束をした投機家たちが、期限だから現物渡せと買い手から迫られている状態だ。あわててプラチナのリース市場でプラチナの現物を借りようとしたが、もう遅い。とっくに足元見られ吹っかけられて、にっちもさっちもゆかない。こうなると、需給ファンダメンタルズなどという理屈を遥かに超えた次元でマーケットは値だけ飛ばしてゆく。金の1/20という流動性の限定された狭いマーケットの宿命である。迷惑しているのは宝飾メーカーとか自動車メーカーの実需ユーザーだろうね。

元プラチナディーラーの勘としては、この相場は大化けしそうだが、一般の個人投資家は近づかないほうがいい。先日の本欄では、プラチナについて自分の欲をコントロールできる自信があるなら長期保有もよしとしたが、こうなるとストップ高とかストップ安で思うように売買できない状況が続く事態を想定せねばならぬ。(先物市場の過熱を冷やし投資家を保護する制度とはいいながら、劇場内で火事になったときに出口を塞ぐことになるのだからヒドイもんだね)。

当分、このメタルについては高見の見物を勧める。やっぱり貴金属はゴールドに限るね。

2006年