2006年4月21日
なんとも派手な乱高下である。24時間で30ドル近い幅を上下するのは、それこそ25年ぶりかな。昨日は特に銀の手仕舞い合戦に完璧に引っ張られた"連れ安"とでも言えようか。
コモディティー ラリーということは、裏を返せばコモディティー クラッシュにも巻き込まれるわけだ。高速道路の玉突き事故だね。一台スピンして後続の車が次々スリップする。
昨晩もNYの連中とチャットしていたら、ブロードウエイ大好きのトレーダーが言っていた。ゴールドという出し物も大ヒットなのだが、オフブロードウエイでシルバーが輪をかけた大当たり。狭~~い劇場内は超満員。その中の一人が、もう充分楽しんだから外に出るといって人混みかき分け始めたら、俺も私もと一斉に出口に殺到のパニック。慌てた劇場側は出口を15分間閉鎖。(昨日のNY銀先物は日中1.5ドルの値幅制限を超えストップ安。規定により15分間10:35-10:50の間、取引中断。水入り後再開。)
この出口殺到現象は"劇場のシンドローム"と言われる現象だ。プロの世界でも、プログラム トレーディングと称して、コンピューター ソフトの命ずるままの機械的売買が広まると、同様に一斉に同方向の売り又は買いが同時多発的に起こるリスクが指摘されている。特に劇場(=市場)のキャパが小さいと、リスクは増幅される。銀の場合、ある調査ではディーラーの97%が強気という数字も流れていたが、市場参加者ほぼ全員が同方向=上を向いて、買いたい人は皆買い終え、後は利益確定の売りのタイミングを待つばかりという姿勢であった。
冷静に見れば、金市場でも実は程度の差こそあれ、同様の状況が見られる。ただ、銀と決定的に異なる面がある。金はコモディティーとマネーという二つの需要セクターが確立していることだ。市場参加者の裾野も、地域的、人種的に多岐に亘る。NY先物が手仕舞い売りに入れば、中国、インドの実需筋はすかさず買いに入る。年金も長期的ポートフォリオのリスクマネジメントという独自の観点から買いを入れる。
劇場のキャパは銀より遥かに大きく、観衆もヘッジファンドというヤッピー然とした客がぞろぞろ出て行っても、おじさん、おばさんの個人や、お堅い年金の理事さんたちはマイペースで残る。
夕べは、NY時間の前に、銀座で東京の仲間と語り合う機会があった。来週開催される機関投資家対象の商品関連国際会議の貴金属パネルの打ち合わせというのが口実だったのだが、そこで今、大はやりのインデックス投資が話題となり、他の商品と異なり、金だけは、インデックスで説明できない部分が多いよねというハナシになった。結論は、その差がETFという存在なのだろう、ということ。
インデックスとETF。いまや花形の二大スター商品だが、機関投資家の購入動機はかなり異なる。絶対的リターンを重視する前者タイプと、ポートフォリオの信用リスクをヘッジするために"誰の債務でもない"金現物にこだわり、わざわざ金の延べ板をカストディアンの金庫にしっかり保管する後者タイプ。
buy and sell(買っては売るを繰り返し売買差益追求)とbuy and hold(買いっぱなしで長期保有)の違いと言ってもいい。今夜は別のグループと新大久保に集うのだが、そこのレギュラーメンバーB氏に言わせれば、buy and forget が一番だと。これ人間の欲望という観点からは最も難しい。筆者は金買って、5年間冬眠できたらよいのにと思うが...。なお、同氏は昨晩のNYシルバーは彼の20年のディーリング歴でも初体験の規模の暴落で、NYシルバーのストップ安も初体験と早朝メールで語っている。来る5月27日に彼と二人で今後の金銀相場について激論を戦わせるトークバトルやりますから請うご期待。仔細は来週4月26日の日経朝刊にて発表します。)
さて、派手な相場だが、こればかりに目を奪われてはいけない。鳥の目を忘れずに。昨日書いた1980年の史上最高値との比較一覧は、昨日のCNBC出演の折りもネタにした。けっこうあの番組を見ている人も多いらしく、色々共感の反応を戴いた。
番組では最後30秒になって言い切れなかったのだが、相場の展開としては、モメンタムで行くところまで行ったあとで、適正価格(=新たな長期需給均衡点)の模索が始まるだろう。まずはオーバーシュートしないと、マーケットの買いエネルギーが引き下がらない。その後の適正価格の模索は手探り状態ゆえ数年かかる。基本的には高止まりである。金の場合は、希少資源ゆえ、海底の金鉱脈でも経済的に採掘できる画期的技術が開発されるとか、アメリカ人が過剰消費を反省し貯蓄に走り双子の赤字の根源的問題が解決されるとか、中東に平和が訪れるとか、いずれも非常に確率の低い事態が現実化しない限り、高水準の価格帯に落ち着くであろう。