豊島逸夫の手帖

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バーナンキ証言で急反発

2006年7月20日

今週のハイライト、バーナンキ議会証言と米消費者物価発表が昨晩(19日)に重なった。

そのバーナンキ証言だが、内容は相変わらずどうとも取れる発言だ。しかし、マーケットは"利上げ打ち止め、継続"どちらとも理解できる内容であれば、ひとまず安心する。一番恐れていた内容が、"明確な利上げ継続示唆"だったからだ。

報道では、米景気スローダウンの懸念もあり利上げ打ち止め示唆というような内容になっているが、実際最初から最後まで聞いてみたけど、"それでもインフレのリスクも残るよ"とか言って逃げを作っている。決して言質を取らせない。

とにかく、その証言直後から、マーケットには買い安心感が広がり、株、債券ともに買われ、ドルは有事のドル買いから一転金利差縮小を嫌うドル売りへ。金は640ドル台へ10ドル以上の急反発となった。

株と金の関係を見るに、地政学的要因がテーマの時は、株売り、金買い、マクロ経済要因がテーマの時は、株も金も同方向に動くというのが、どうも最近の傾向になってきたようだ。(あくまでも短期的な観察に過ぎないが)

昨晩のもう一つの大きな材料、米CPI(消費者物価)は、コア指数が予想を上回る0.3%上昇。年ベースで3%以上の計算になる。ここ3ヶ月ほどの指数のトレンドを見るに、原油急騰がじわじわ諸物価に波及していることを強く示唆している。筆者から見れば、バーナンキの難解な証言より、こちらの経済統計の方が、"中期的"マクロ経済要因として要ウオッチだと思うね。

それから、中国経済だが、全人代の大本営発表では、直近の成長率が11%を超え、年率7%の安定成長路線へということだが、実態は地方経済の成績を経済成長率という統計で評価する体制を敷き、各地方を競わせている。それをやらないと雇用を維持できず国民の不満を抑えられないというのが実情なのだ。

筆者は、金価格が下がりうる要因の一つとして中国経済の減速をかねてから挙げてきたが、当面その可能性はなさそう。外貨準備高が世界一になった結果、国内過剰流動性も膨張し、銀行貸し出し制限など導入しても、実効が現れてこない。つまり、インフレのリスクも台頭している。それでも、山高ければ、谷深し。成長のスピードが過熱すれば、いずれ不可避の"調整"もより痛みを伴うことになると思うのだがね。

今日はマクロ経済に話が振れたので、最後に米国の双子の赤字の近況について述べる。

まず、経常収支は2005年の7200億ドルを遥かに上回るペースで悪化中。特に対中国で拡がっている。

対して、財政赤字は2005年を3割近く下回り、3000億ドルの大台を割り込みそう。減税―景気刺激―税収増による赤字削減、という共和党の伝統的ロジックが功を奏したとブッシュ大統領は大自慢。

しかしエコノミストたちは、これから米国でも団塊の大量退職が始まり、メディケアなどの健康保険も膨れ上がり、とても楽観できる状況ではないよと至ってクールだ。

ということで、今年後半も、外為市場では、金利差要因と双子の赤字という構造要因の綱引きが続きそうな様相である。ドル相場に限定して言えば、ドル安、ドル高、どちらかに決定的な方向性は出にくい状況が続く、つまり中期的ボックスから抜け出せないと見ている。

2006年