豊島逸夫の手帖

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アジアの中の日本市場

2006年6月28日

本稿はシンガポールで書いている。ここは、最近ムラカミ氏が居を移したところ。筆者の友人にもガイシケイのトレーダーでたっぷり儲け、今やシンガポールに移住したのもいる。この現象は日本人に限った事ではなく、今、当地は富裕層相手のプライベートバンクの活動が目立つ。

お金が集まるところ、金融のノウハウも集まる。金市場でも、伝統的なアジア型金市場とは別に、金融市場のなかに新たなゴールドマーケットの芽生えが見られる。依然規制や既得権益のシガラミの多い東京市場に比し、革新的動きが育ちやすい土壌がある。

ゆえに、日本を離れ東京市場を見るたびに、日本人としては一抹の寂しさを感じるのだ。

そして困ったことに、日本人は自分なりに考えて自分なりの相場観を持つことも苦手である。同方向に大多数がドドドと鼠の大群の如く動く。ワールドカップがその良い例である。サッカーというスポーツは未だ日本に定着したとは言いがたいが、ワールドカップ期間中は報道もそれ一色になる。誰が見ても日本人の体格的劣勢は否めないが、そんなことを口にしようものなら仲間から白い目で見られる。あとは成せば為るの精神論のみ。

こういう風潮は、マーケットにとって最悪の環境だ。売りなら売り一色、買いなら買い一色になりやすく、売買バランスのとれた流動性に欠ける。方向が間違ったとなれば、ジーコバッシングの如く、"お上が悪い"の大合唱となる。

投資家教育の必要性を説いても、"そんな難しい横文字の理屈は俺たちには分からん"。外から日本を見ると、浸水し始めた日本丸のなかで多くの乗客たちが、こんな状況になったのは船長の責任だと騒いでいるように映る。

知り合いの著名な某評論家氏は、正論を思い切って述べると、テレビなどでは"いかがなものか"(これ筆者は一番嫌いな言葉)と、まず編集でカットされると嘆く。そして局からはお声がかからなくなるそうだ。言論は実質的にかなりコントロールされている。

そして、国民の間のやっかみという感情もやっかいだ。ホリエモンも、ムラカミファンドも、日銀総裁も、コンプライアンス上明らかに悪いが、それ以上に日本経済の未来にとって悪いと感じるのは、やっかみで"ざまぁ見ろ"という風潮が強いことだ。だからといって、清廉潔白の極みの修道士に経営や経済の舵取りを任せられるかい?足引っ張り合う国は向上しない。結局、抵抗勢力の思うツボにしかならない。

アジアの中で日本を見ると日本のマーケット(韓国もそうなのだが)は新しい動きを拒む面が目立つ。

金市場もこのままでゆくとアジアの他市場にリーダーシップ持ってゆかれると危惧している。

2006年