豊島逸夫の手帖

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580ドル突破

2006年3月31日

コモディティーラリーのなかで連れ高のカタチで始まった今回の金価格急騰が加速してきた。本稿執筆時点3月31日朝7時で、スポット589ドルまで来ている。

今回の金価格上昇の理由をおさらいしてみよう。
-中国、インドの需要増加を見込んだ商品特にメタル全般の上げ、更にETF上場を囃す銀の高騰。
-原油価格再上昇。
-インフレ予防措置としてFOMCが利上げ継続を示唆したことが、かえって市場でインフレ懸念を再燃させていること。
-イラン核問題、イラク内戦化の危機、アルカイダの執拗なテロ警告などの地政学的リスク。
-米経常収支は年間8000億ドルの大台を突破。ベビーブーマー退職を控えて財政赤字拡大観測などで双子の赤字=米経済の構造的債務リスクが再認識されていること。
-利上げ=米住宅バブル破綻が懸念されるなかで、先週末発表の新築住宅販売件数が事前予想に比し大幅減少。GM問題と合わせ、信用リスクの高まりが金へのflight to quality(質への逃避)を惹起している。
-中東オイルマネーが対外資産凍結を嫌い、自国回帰を余儀なくされるなかで、中東株の暴落が起こり、行き場を失った過剰流動性の一部が金市場へ流入。
-中国の外貨保有が日本を追い抜き世界一という中国発の報道が流れる中で、民間銀行、シンクタンクの一部が、公的金購入による"分散運用"を提案。
-供給サイドでは、南アのコングロマリットであるアングロアメリカンが、アングロゴールドの株式の一部を手放す動きが表面化。金価格高騰にも関わらず有限の資源の壁に直面し、金生産伸び悩みがあらためてクローズアップされた。
-思わぬ金急反騰に期末が重なり、特に豪金鉱山会社のなかで、金ヘッジ売りをあわてて買い戻す動きも。
-NY先物内部要因としては、2週間前に大口投資家買い残高がピーク時から4割程度減り、300トンの大台を割り込んだこと。地合いが軽くなり新規買いが入りやすい素地ができた。

以上のような背景のなか、金利を産まない金にとって逆風のはずの利上げ(昨晩は債券売られドル長期金利も4.88%まで上昇)、そして、アジア、中東の実需筋の高値警戒による買い控え、更に売り戻し(還流)ラッシュ、というマイナス材料を圧倒するカタチで買いが優勢である。乱暴な言い方をすれば、グローバルな過剰流動性(ホットマネー)が力づくで、金を含め様々な投資対象を循環物色している。買いの口実はいくらでもある、何とでも後講釈できるといわんばかりだ。

足元では先物買い、現物売りの展開なのだが、このパターンは急騰後、急落という逆V字型の相場になる可能性が強い。先物買いが一巡したところで、現物の売り(これは先物と違い売りっぱなしだから)がじわじわボディーブローのように効いてくるのだ。

但し、そこでETFを通じたまとまった年金の買いがフォロースルーで再び出てくると、更に上を試すことになるので、ここが今後の注目ポイントだ。ETFの買いポジションは現状で100%全て含み益を持つはずだから、高値圏でも買い増しはしやすいと思われる。

2006年