2006年1月10日
前回更新時525ドルまで下げていたが、2日連続で10ドル前後の急騰が続き、本稿執筆時点(1月10日朝7時)では548ドルをつけている。
今回の材料は明確である。
まずは、なんといっても、中国当局それも対外準備資産運用担当者が膨れ上がる外為準備資産の分散運用方針に初めて言及したことが効いている。我々関係者はSAFEと呼んでいるのだが、英語ではState Administration of Foreign Exchanges (=外為管理局)のコメントなので影響力は大きい。ただし、特に金を指名しているわけではない。2006年の目標ということで、"外為資産管理を改善し、より積極的に効率化を計る。準備資産の投資分野を拡げ、通貨構成と資産構成を改善する。"という。
現在8000億ドル近くに達し、今年中には一位の日本を抜き1兆ドルの大台に急増するといわれる規模の準備資産の7割前後が米ドルで運用されていると言われる。既に21世紀に入り、公的金準備を400トンから600トンに増やした実績もあり、当然、金もその対象になろうとの市場の観測が強まっているのだ。
実は筆者はこの3連休に上海で一仕事して昨日深夜に戻ったばかりなのだが、現地の金関係者の間でもこの話題でもちきりだった。SAFEのなかで、ほんの一握りのエリートが8000億ドルの運用を管理しているのだが、いずれも米国ビジネススクールなどで揉まれた秀才ぞろいである。組織の上部にいるような党出身のオジサンたちとは全く異なる人種である。金専門家たちからの定期的ヒヤリングも欠かさない。欧米からの訪問者には北京料理のフルコースでもてなす外交感覚も有する。中央銀行の間でも、アジアでは日本、シンガポールと並び"高度のハナシができる仲間"との評価は高い。状況証拠から金が視野に入っているのは間違いないと思う。
第二の材料は、米利上げ打ち止め観測。2006年の金価格展望でも第一番目の中銀金購入の次に挙げた要因だが、その時点では4.75%まで市場は織り込み済みとした。しかし、いまや、0.25%ずつあと2回の利上げ即ち、バーナンキが仕切る初めてのFOMC(3月)で利上げを継続するか否かの確率は50-50になってきた。グリーンスパン最後の今月FOMCにおける0.25%引き上げ、即ち4.50%で打ち止めと見る観測が浮上しているのだ。これは予想より早い政策転換になるので、市場は改めて金価格上げ材料として位置づけているわけである。
第三の要因は、これも2006年の展望で3番目に挙げたドル安。ドル利上げ打ち止めとなると、予想通り市場のテーマは金利差から双子の赤字という構造要因にシフトしてきた。ドルと金の連関が薄れたというのは、ドル高=海外金安の連関が薄れたということで、ドル安=海外金高の連関は未だ残っている。先高感の強い市場にとって都合の良い材料の選択とも言えるが。ただし、短期的外為レートの乱高下は別にして、底流としての米ドルへの不安感だけは根強く残る。
さらに、地政学的要因としてイランの核開発再開報道が出たがこれは想定内。しかし、シャロン危篤は全く想定外。互いに憎しみ合うイランとイスラエルが地政学的リスクの新たなベクトルだ。
国内金価格も昨年とはだいぶ様相が異なる。海外金高+円安から海外金高+円高の組み合わせに転じてきている。従って、欧米に比し上げのスピードは緩い。これも展望で述べたことだが、実需家にはより安定的で買いやすい環境になってきた。