2006年9月12日
昨日極東時間の取引薄い時間帯に東京発の先物売りと海外からの仕手っぽい売りが出て、600ドルという当面のレンジの下限が破られた。損切り(ストップロス)の売りが続き、下げが加速。昨晩は一時585ドルを下回る場面もあったが、本稿執筆時点(9月12日朝10時)ではスポット590ドル前後で推移している。
直接的な売りの口実としては、
―イランが欧州との外交的対話の過程で核開発1-2ヶ月凍結を示唆したとの報道。
―ワシントン協定の年度末も今月末に迫り、駆け込みの中銀売却が出るとの懸念。
しかし、イランがそうヤスヤスと態度を軟化させるとも思えず、今月中にどうしても金を売却したいとウズウズしている中銀がいるとも思えず。ま、材料の信憑性などはこの際彼らにとってどうでもいい。神経質な投機筋の心理戦なのだから。
これで600-650ドルというこれまでのレンジが崩れたことはたしか。新たなレンジの模索が始まる。
600ドル割れではインド、中国などの現物買いが入ることは季節的に見ても値ごろ感からも必至。ETFの残高もここ数週間動意がなかったが、ここからはまた増え始めるだろう。一方で、短期投機筋のなかには600ドル以上の買いポジションをかかえて梯子外され逃げ遅れた人達も居るはず。相場が反騰すれば彼らの戻り売りと呼ばれる現象が出よう。
中長期的にはここからは買いゾーンである。
そのことを検証するために2001年9月11日米同時多発テロから直近に至る5年間の価格推移を改めて見てみよう。
ここ1年ほど上昇トレンドの角度が急になっていることが見て取れる。タイミングとしては、金ETFが本格的に成長を始めた時期と一致する。年金マネー流入という新たな構造要因が加わり、トレンドラインの上昇角度が急勾配になったと理解できよう。とはいえ、誰が見てもこのまま持続は難しそうな急上昇である。そこで、よりなだらかな勾配に移行しつつある時期なのだと思う。旧トレンドラインと新トレンドラインの中間をマーケットが模索中である。但し、その過程は乱高下が繰り返される荒い道のりのようだ。
さて、このような局面になると必ずや頭をもたげる議論が、コモディティークラッシュとか商品サイクルの終焉とかいう悲観論である。昨晩の外電の見出しなどにその兆しが既に見られる。今回は、米国景気後退―世界的経済への波及―中国経済成長鈍化というシナリオが懸念されている。
しかし、ここ数年の商品市場への資金流入は、景気循環論に基づくマネーの出入りというより、エマージング(新興国)を中心にした世界経済の構造的変革に起因する。経済学的に言えば、一定の需要曲線上を新たな需給均衡点が上下する静的(static)な現象ではなく、需要曲線そのものが上にシフトする動的(dynamic)パターンである。
本欄でしつこく書いてきたことだが、木を見て森を見ず、ということだけは避けよう。先週末、宮里藍チャンが凱旋優勝した北海道のニドムという雄大な原生林の中のゴルフ場は2年前台風で多くの木が倒れ、その倒木だけ見ていると、もうこのゴルフ場もオシマイかと思われた。が、自然の成長力とは大したもので大きな森そのものが崩壊することはなかった。同様に、中国、インドなどの成長がこれで崩壊するとはとても思えない。