豊島逸夫の手帖

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GFMS社850ドル予測の波紋

2006年4月14日

GFMS社が恒例の金統計年報発表にあたり、1-2年以内に850ドルという大胆な予測を打ち出したことが反響を呼んでいる。

その根拠を同社は、weight of moneyという言葉で表現している。この言葉は本欄でも今年1月5日(weight of money=おカネの重み)にて扱ったトピックである。他の金融市場に比し、金市場の規模は小さいので、株債券から少しのマネーが流入するだけで金価格は高騰(或いは暴騰?)するという議論だ。ETFという金融商品型の金投資商品が主として年金基金向けに開発されてから、この議論の説得力が高まった。従来は一部のGold Bug(金本位制支持者)の間でもてはやされた過激論であったが、ここにきて徐々にmainstream(主流)の仲間入りをしつつある。

同社社長ポールウオーカー氏も昨日、業界誌というかサイトのMinewebに出演した際、"イギリスで大手スーパーのサンズベリーが同社従業員の年金基金の一部を商品で運用すると発表しており、年金の金参入も身近に感じられるようになった。金850ドル? No Problem at all!"と自信満々だ。

けれども、"そのシナリオが崩れるとすれば、何でしょうか"と突っ込まれ、"やはり高値で宝飾需要が減少することか"とも述べている。

たしかに、プレスリリースで同社会長談として、2006年宝飾需要はこのままゆくと500トン以上減少する可能性あり。例えば中東の代表的市場トルコなどは前年比60%急減している、とのコメントを載せている。更に、新産金量も2007年には2700トン台まで上昇が見込まれている。これは2001年の2621トンを上回る過去最大のレベルだ。

以上をまとめて考えるに、宝飾の500トン減少は無視できず、他の条件を不変とすれば、ETF等で500トンの新規需要が生まれなければ需給は均衡しない計算になる。今日現在のETF残高は450.99トン。(ちなみにこの2週間でまた10トンほど増加)。これが倍増以上するか否かというわけだが、weight of money論にたてば、金500トンといったって、たかが1兆円ちょっとでしょう。日本だけで個人金融資産が1500兆円あるのだからわけないさ、ということになる。

最近、筆者も年金関連の勉強会に呼ばれる機会が増えているが、例えば、あの業界では、今、地方公務員共済年金がいよいよ代替投資(オルタナティブ資産)と呼ばれる株債券など伝統的資産をヘッジする分野に分散運用を検討ということで騒いでいる。コモディティーなどは正にその分野なので、特に流動性がありETFなども開発されている金が注目されるわけだ。但し、weight of money論を逆にとり、年金側から見れば、金は市場規模が小さすぎるから意味のあるポートフォリオ分散運用の対象としては考えにくいとの議論も根強い。(それでも管理部あがりの年金理事さんの一人や二人は必ず終了後、歩み寄ってきてひそひそ声で金は何処で買ったらいいでしょうね、などと相談してくるのだが。)

さて、足元では、ドル長期金利5%、原油70ドル、そして金600ドルと相次いで大台突破。特に長期金利は短期金利上昇にもかかわらず長いこと動かず、グリーンスパンさんをして"conundrum=謎だ"と言わしめたのは、金融界では有名な話。その謎の長期金利が上げ始めたことは、投資家の将来に対するリスク意識の高まりと理解される。投資リスクのヘッジとして金が買われる状況、専門的に言えば、リスクマネジメントのツールとしての金を象徴するような展開である。

そのグリーンスパンさんは今週、ソウルで開催されたフィナンシャルタイムズ紙主催のセミナーに米国自宅からビデオ講演参加。質疑応答で、過剰流動性問題に触れ、"この流動性がいつ減少するかについては分からない。分かっているのは、現状が、一生に一度、50年に一度あるかないかの普通ではない事態であるということだ。"と述べている。資産インフレなどが論じられた今回の会議の講演料は金でもらったのかな?

2006年