豊島逸夫の手帖

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カルパースの参入

2006年9月14日

カルパース=カリフォルニア州職員共済年金基金といえば、米国最大の年金基金として金融関係者には知られた名前だ。年金の世界で常にロールモデル=見習うべきお手本のような存在として一目置かれている。特に、ガバナンス(企業統治)の観点から物言う機関投資家株主としてディズニーのトップを更迭させるなどで一般紙の話題になったこともある。彼らの運用姿勢もしばしばお手本としてみなされる。

そのカルパースが最近 商品分野での運用を拡大する方針を打ち出し注目されている。昨日も、彼らが天然資源などへの直接的投資機会を検討するためのワークショップを開催したというような外電報道が出ていた。

筆者にとって、カルパースが特に身近に感じられるのは、WGCロンドンのCEOジェームス バートンが9年間カルパースのCEOを勤めた人物だからだ。当社に来て彼が最初に手がけたことが、年金向け金投資商品の開発であった。WGC本体は非営利法人なのでワールドゴールド フィナンシャルサービスという別会社をNYに設立。モルガンスタンレーやHSBCから専門家を引き抜き、金ETFを開発。2年間に及ぶ米当局(SEC)とのやりとりを経て最終認可を取り付けた。今、さかんに話題になる金ETFの産みの親なのだ。やることは大胆だが、性格はシャイ。我が家に夕食に招いたときも、日本の年金そしてコーポレートガバナンスの権威 若杉教授と一緒だったのだが、ジョークを言いながらもアメリカ人にしては常に控えめであった。(もっとも、彼がカルパース流の合理性をWGCにも持ち込んで大胆なリストラを実行したのには参ったけどね。)

その彼がつねづね口にする言葉が、"株や債券などの伝統的アセットクラス(資産運用)だけでは世界同時株安とかトリプル安の時代に分散が効かない。"ということ。米国最大の年金基金の責任者を9年間勤めた人間の言葉ゆえ重みがある。金投資というとリスキーといわれるが、インフレに対して無防備なポートフォリオのほうがリスキーという考えも旧来の発想の転換である。

カルパースが本格的に商品分野に参入すれば、他の年金への影響は計り知れない。既に中国の金需要2年分に匹敵する量を吸収した金ETFだが、実は未だ本番はこれからなのだ。日本でも年金セミナーなどでよく言われることは、"代替投資の理屈など分かっている。それでカルパースはどうなの。彼らがやれば内部のコンセンサスも取れるよ"ということ。シンガポール上場も視野に入り、来年あたりは日本でも動きが出るのではないかと感じている。

さて、足元の相場は600ドル割り込んで590ドル前後の水準で綱引きが続いている。こうなると市場にはファンド中心に悲観論も台頭してくるが、ヘッジファンドと年金の行動パターンは全く異なる。金ETF残高が今週に入り489トンから491トンへ増えている事実に、その違いがうかがえよう。ヘッジファンドが売り逃げるところを冷静に丁寧に拾ってゆくのが、年金の一貫した姿勢である。

2006年