豊島逸夫の手帖

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今度はイスラエルのレバノン侵攻ときた

2006年7月13日

昨日、地政学的リスクが日替わりメニューのように出ると書いたが、次のメニューは、イスラエルのレバノン侵攻という、これもインドテロと同様、想定外の材料がディーラーの意表を突いた。マーケットは敏感に反応して、650ドルを突破。いや、ほんとに、これでもか、これでもか、と地政学的要因のオンパレードの感あり。

イスラエル関連では、既にパレスチナによるイスラエル兵士拉致、報復としてのハマス政権本部空爆などで緊張が高まっていた矢先である。イスラエル軍が南部のガザ地区に集中投入されたことを見計らって、北部でレバノンのヒズボラというゲリラ組織がイスラエル兵2名を拉致し、イスラエルに二正面作戦を強いることになった。

ただでさえユダヤ系ディーラーの多い欧米金市場は、こういう事態には事のほか敏感である。欧米の地政学的リスクの順列は、イラン、イスラエル、イラク(以上は僅差の1,2,3位)、そしてインドテロ、あ、それから北朝鮮もあったっけと言う感じ。

いずれにせよ、こうも地政学的要因が続くと、米国株式市場も売りが先行する。Sell now. Think later. まずは売れ、そのあとで考えろ、だそうである。

原油価格も75ドル水準まで続伸。

外為市場では、5月の米国貿易赤字638億ドル、年間赤字が7200億ドルを超えた2005年を遥かに上回るペースという大きな材料も出たが、事前予測の653億ドルより小幅ということでドルは買われることに。その結果、円安気味だから円建て金価格はダブルで上昇することに。現金なもので、円安基調と見るや、日本市場は改めて有事の金買いと動き出す。

日本のゼロ金利解除は、欧米市場も注目。end of easy money.これでいよいよ超金融緩和に起因する過剰流動性がバキュームのように吸い上げられる。タダ同然の金利で円建て資金を借りて先物で金を買いまくるなどという手法はもう通じないよ、というのがマーケットの見方。とはいえ、ドル5.25%、ユーロ2.75%、そして円がゼロ金利解除といってもせいぜい0.25%!?

まぁ、ここはETFでもじっくり買ってゆきましょう、というムード。その金ETF残高は増加が続き483トンに達している。

さて、問題はこれから。地政学的要因の連発で600ドルからほぼ一気にここまで"通勤快速"みたいに途中駅をすっ飛ばして来たが、停車すべき駅まで停車せず通過してしまったような感はあるね。

過密ダイヤの通勤快速にはあり得ないことだが、相場には"引き返す"という可能性が常にある。一過性の地政学的要因がたまたま同時多発となったわけで、これだけでは現水準を支えられないと思う。これまでも何回も書いてきてシツコイようだけど(最近読み始めた読者もいるゆえ)、有事の金だけに乗って買い始めるのは危険。ハシゴはずされることが多いから。あらためて金が上がっている7つの理由(有事の金を除く)(※)を噛み締めるべし。


金価格が上がっている7つの理由。

1.原油高とインフレ懸念
70年代に二度のオイルショックを経たインフレ基調で金価格は高騰。史上最高値を記録しました。その連想から、原油など天然資源価格が上昇するいま、インフレヘッジとして金が注目されています。

2.有事の金
いまだ不透明なイラク情勢に加え、新たにイランの核保有問題、そしてパレスチナ問題が深刻化。中東地域における地政学的リスク(火種)がますます高まり「有事の金」人気が加速しています。

3.ドルからユーロ、金へ
米国の「双子の赤字」という構造問題への懸念から、世界的に投資マネーのドル離れが進行中です。まずユーロへの分散シフトを経て、現在では日本株、そして金への運用が拡大しています。

4.アジアと中東のマネー
中国とインドは歴史的にも文化的にも金選好度が高いことで知られています。また原油高で潤った中東のオイルマネーも金へのシフトを開始。世界的に金需要の伸びが見込まれています。

5.中央銀行の金購入
90年代は欧州中央銀行の金売却が金価格を押し下げました。しかし現在では、対外準備資産として金が再評価され、ロシア、中国などの国々で金購入の可能性が指摘されています。

6.信用リスクの増大と金
日本ではライブドア事件が「紙の資産」の信用リスクを顕在化させました。米国ではGMの経営不安や住宅バブル崩壊が危惧されています。「実物資産」である金への回帰が起きています。

7.年金基金の参入
金の現物に投資するETF(上場投資信託)が開発され、長期運用を旨とする欧米の年金基金などが積極的に金購入に動いています。運用資産のリスクヘッジとして金が選択されているのです。
 
2006年