豊島逸夫の手帖

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金ETF シンガポール上場

2006年10月12日

9月8日付けで既に書いたが、金ETFが昨日アジア市場にもデビューした。

今だから言えることだが、本欄6月28日"アジアの中の日本市場"をシンガポール滞在中に書いて送ったときが、本件の当局との最終詰め作業の真っ只中であった。

金に関する専門的意見を求められて参画したのだが、正直、羨ましかった。SGX(シンガポール証取)の担当チームは、熱心な女性二人。当局の姿勢も一貫してこの新商品をなんとしてもアジアで上場させようという熱意を示す協力的なスタンスであった。そこには、官庁の縄張り意識を捨て、民間の視点で物を考えるお役人の姿があった。

ミーティングの雰囲気は、筆者がスイス銀行在職時に慣れ親しんだ大手投資銀行の社内会議そのままであった。東京サイドの人間とすれば、このままではマーケットのリーダーシップを取られるという危惧を感じた。このままゆけば、香港市場だって黙ってはいまい。世界の主要市場には全て上場され、ポツンと日本だけが蚊帳の外という事態が見える。

もう一つ痛感したことが、金市場の裾野が広がり、従来のマーケットのネットワークでは把握しきれない次元まで拡大してきたということ。というのは、全く同じ日にスイスでは世界の金市場関係者400名が金会議に集っていたのだ。

業界の仲間たちからスイスのワインはおいしいよ、というメールが入るなか、この業界とは全く無関係な大手金融機関の人達がシンガポールに集結し、金投資新商品の開発に向けて黙々と従事するという現象...。当事者が少しでも金業界に関連していれば、なにもこの日を選ばなかっただろうなと思い、考えさせられたものだ。

さて、シンガポール上場後の展開だが、同市場はあくまでtrading market(取引市場)である。ウインブルドンと同じく、場所を提供して、そこに周辺諸国の機関投資家マネーを如何に取り込めるかが勝負。ところがそのマネーのストックが偏在するのは、他ならぬ東京市場である。そこで、同商品紹介のためのアナリストミーティングがアジア諸国をキャラバンするなかで、東京にも立ち寄ることになりそう。

なお、シンガポールに上場されたETFは、NYで組成された商品をそのまま持ってきた、所謂cross-listingという形態である。NY株をシンガポール市場で売買決済するためのインフラがそのまま利用されている。

そして、次には、アジアで組成された金ETFも視野に入る。メイドインジャパンの金ETFの日本におけるprimary listingである。

筆者が属しているWGCは、一連の金ETFの商品開発の過程において、目論見書にも明記されているのだが、原商品の骨格を構築し、金現物に対する信託契約のカストディアン(保管銀行)とかトラスティー(信託機関)の指名などを行ってきた。(商品誕生までに関わり、その後 第二弾ロケットに移行の後は、商品の売買には一切関わらないという立場である。)

日本でも来年にかけあわただしくなってきた。

2006年