豊島逸夫の手帖

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鳥の目、虫の目、魚の目

2006年2月20日

東大大学院伊藤元重教授と日経セミナーで何回かご一緒したのだが、先生が講演で必ずおっしゃることが、"マーケットを読み取る力"として三つの目を持てということだ。経済の大局を見る"鳥の目"、現場を見る"虫の目"、そして流れを読む"魚の目"。言い得て妙だと常々思っている。アナリストは鳥の目、ディーラーは魚の目、投資家やユーザーとの接点が虫の目というのが筆者の理解だ。

今の金市場を見るに、鳥の目で見ると、まず、デフレの次はインフレという経済サイクルの存在。一見羽振りが良いのだが、台所は"双子の赤字"で真っ赤という米国経済の実態。このマクロ経済要因が背景にある。

次に魚の目で見ると、ドル金利がジワジワと上昇し、短期的投機マネーの流れが商品、そして金などから引き揚げ始めているという状況が、調整局面となって現れている。

その中で、虫の目で見れば、下がったら買おうと投資家たちが身構えている。米国で年金が金を買っているのは何故か。日本で団塊の世代が金の千両箱を買っている心理は何なのか。その心の中も読まねばマーケット全体を見たことにはならない。

そこで、WGCが先月行った金投資意識調査の結果の一部を紹介したい。対象は富裕層(と思われるランダムサンプル)。金に興味を持ち、購買する理由を聞いた。複数回答で、参考までに前回(2004年3月)の数字も併記してみる。


2006年2月 2004年3月
1.価値がゼロにならない 53.4 51.3
2.インフレに強い 42.5 32.5
3.世界共通の価値 32.9 35.0
4.価格上昇が期待できる 23.3 10.0
5.分散投資として有効 21.9 23.8
6.有事の金 15.1 15.0
7.ペイオフ対策  16.3 13.7
(%)

こうして見ると、基本的に投資家が金に注目する理由は安定しているが、インフレとか価格上昇という項目が上昇しているところに変化が見られる。筆者が意外に感じたことは、日本経済の立ち直り、金融不安の沈静化にも関わらず、第一位の"金は紙くずにならない"という理由が依然ダントツで、しかも増えていること。個人投資家はまだまだ安心していないようだ。それほど、バブル崩壊後、痛めつけられてきたということか。

最後に一言。金市場を見るための鳥の目だが、これが日本国内で普通のメディアに接しているだけでは実に難しい。鳥の、ではない、トリノに関する日本のメディア報道で皆が痛感したことは、日本のレベルはマダマダ。それを井の中の蛙で大騒ぎしていたという厳しい現実。しかも、海外のトップレベルの映像を見たくても殆ど流れない。パシュートみたいに 事前に知らされていなかったけど、こんな面白い競技もあったのだという新鮮な発見もあった。でも、とにかく日本のメディア報道は、どこで切っても同じ金太郎飴状態。これと同じことが、金市場を見るための情報収集についても言える。

国内ではヒルズと偽装ばかりの報道。その間に海外では何が起きているかを掴むことが容易ではない。そこで、せめて、海外ニュースをNHKのBS放送で見ることを奨める。欧米、アジア、中東の主要テレビ局のニュースを少しでも見る習慣をつけることだ。ヒルズと偽装に飽きた目と耳にはかなり新鮮に映ると思うよ。アルジャジーラの伝える中東情勢、中国国内の大本営発表報道、そして米国ABCのこの道20年のベテラン記者たちの口角泡飛ばす激論。俄か勉強のタレントの司会とか、幼児殺害報道に金融評論家がコメントするというような世界とは大違いだ。

まぁ、本欄でも、微力ながら、3つの目をバランス良く伝えるべく努力してゆきたいと思う。

2006年