豊島逸夫の手帖

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ヘッジファンドETF

2006年12月5日

ヘッジファンドとETFという旬の商品を一体化する新商品が開発中という。ゴールドマン サックス ロンドンの仕組み商品開発部門によるAbsolute Return Trackerという名の新商品だ。

何千とあるヘッジファンドの運用成績を調べ上げ、ヘッジファンド全体のポジションを追跡し、同様のポジションを再現すれば、株ETFと同じ仕組みの商品が作れるだろうという発想だ。

ヘッジファンドの実際の運用をどこまで把握できるか等、色々問題も多い。
メリットは、フィーの安さ。ファンド オブ ファンズなどの4-7%に対し、こちらは1%という。ヘッジファンド投資入門篇としてリテール顧客などに需要を見込む。

最近、ヘッジファンドの手数料の高さが問題になっている。ヘッジファンドの数が増えるにつれて運用マネージャーの質も玉石混交となりつつあるからだ。そこでは、一般投資家が質の判定をすることが非常に困難である。ならば、ランチタイムのミックス定食の発想で、色々なメニューを少しずつ盛り合わせて提供しようという考えは理解できる。シェフのお薦めコースがファンド オブ ファンズ。そのレストランの全てのランチタイムメニューが少量ずつ盛られているコースがETF。

本欄では、常々ヘッジファンド=投機筋という決め打ちで扱っているが、中には長期スタンスを旨とし、コンプライアンスで先物を禁じているファンドもあるという。そういうファンドが金で運用するときはETFを買うようだ。

一般論としては、ヘッジファンドといえば、短期投機的売買でマーケットのボラ(価格変動性)を著しく増幅させるので、暴れん坊として評判は芳しくない。ただ、市場の流動性をも高めるという貢献を評価する向きもある。

まぁ、金市場に関しては、彼らの悪乗りが過ぎるのは確かで、需給では正当化できない水準まで相場をオーバーシュート或いはアンダーシュートさせること頻繁である。金を売買するのではなく金価格を売買するわけで、所詮ゼロサムゲームの典型である。その結果、一般投資家がなかなか近寄りがたい雰囲気が醸成されてしまった。子供の頃、近くの公園に遊びに行きたくても、餓鬼大将の一派に占拠され近づけなかったことを思い出す。

とはいえ、我々の大切な年金の運用の世界にもヘッジファンドが使われる時代である。ヘッジファンド=絶対的リターンの追求というセールストークに惹かれてのことだろう。ではそのリターンの現状はと見れば、今年はヘッジファンド受難の年とも言われ、実績の出ないところは自然淘汰されつつある。それでも大手の投資銀行は競ってヘッジファンドの買収に動く。今朝もモルガンスタンレーが某ファンドを買収し、株価上昇と伝えられる。運用のスキルにより、人が損しているときに、立派に運用してみせますというアプローチ(ゆえにヘッジの名がつく)は投資家の心をくすぐるのだろう。

金は希少資源としての独自の価値によるヘッジ、かたやヘッジファンドはファンドマネージャーのスキルによるヘッジ。自然と人間の運用競争のどちらに賭けるかは個人の自由である。

2006年