豊島逸夫の手帖

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カルパースの決定

2006年11月15日

カルパースが5億ドルを商品(commodity)で運用決定。これは、直ぐに影響する材料ではないが、中長期的にとても大きな意味を持つと思う。カルパース(カリフォルニア州職員共済年金)は全米最大の年金基金として、常にオピニオンリーダー的な役割を果たしてきたからだ。

近年はコーポレート ガバナンス(企業統治)の実践に努力してきた。(同年金の元CEOが当社のCEOに赴任してからというもの、うちの社内も色々管理の締め付けが厳しくなったものね。カルパース流のガバナンスを肌で感じているのだ)。更に、もの言う株主の代表格として、ウオルト ディズニーの社長の首をすげ替えたりもしている。

日本でも、カルパースがやるなら、うちもやる、内部の稟議も通りやすいから というところが多い。それほどにロールモデルとして看做されているのだ。まぁ、商品の分野に黄門様のお墨付きが出たと思えばよい。これから間違いなく全米の数多くの年金に波及するだろう。まずは総論篇として商品指数のインデックスから入り、徐々に各論(商品別)にポートフォリオを拡大してゆくと思われる。

足元の相場展開は一進一退。これを頭が重いと捉えるか、一歩一歩固めながらの着実な下値切り上げパターンと見るか。

前者の見方の背景には、先週、銅の大幅下げに始まった非鉄のsell-off急落が挙げられる。これまでの急騰の調整と見られるが。

筆者は勿論後者の見方をとる。ETFの残高増も止まらない。前々回518トンと書いたが、今朝は523トンを記録。モメンタム(勢い)がついてきた感あり。年金のみならず、株をやっている米国人富裕層(テキサスの大金持ちなど)なども参入しているようだ。株ポートフォリオの一銘柄に加えるというほどの意識なのだろう。金地金とか金貨には興味示さなかった層で、ETFなかりせば金市場には参入しなかったであろう。マーケットの裾野の拡がりを感じる。その株式はNYダウが再び最高値更新中。富裕層の発想としては株の儲けの一部を金に回すということかな。

さて、潮流として筆者が注目しているのが、今や新聞にもしばしば登場するようになった"円キャリー"の行方。日本の経済指標次第でゼロ金利解除が遅れれば遅れるほど、低金利通貨=円を借りて、その円資金を高リターン狙いの運用に向ける傾向は強まる仕組みだ。その結果、円売り残高が雪庇(せっぴ)のようにそびえており、いつ巻き戻しの円買いが雪崩となってマーケットを襲っても不思議ではないと思われて久しい。(借りた円を売っ払って、面白そうなものに投資するわけだから、まずは円売り要因となり、いずれ必ず反対取引で清算されるから、ほどなく円買い要因と化す。まぁ、ゼロサムゲームではあるが)。

問題はその円キャリーの矛先、つまり何が物色されるかということ。今年5-6月には商品、8-9月にかけては高金利通貨。その折々で猫の目のようにターゲットは替わる。筆者は、いずれ商品に戻ると見ている。

なお、日銀のゼロ金利解除のタイミングが早まれば円キャリーの巻き戻しも早まるであろうから、欧米市場ではFEDウオッチャーが急遽BOJ(Bank of Japan=日銀)ウオッチャーの看板をあげているそうな。

いずれにせよ、金市場内は不気味に静かだが、年末までにもう一波乱の予感がしている。

2006年