豊島逸夫の手帖

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個人も天然資源備蓄を考えよう

2006年4月26日

ここにきて連日の相場変動のなかで短期的視点の中上級者向けコメントに走りがちだったことを反省して、今日は初級者の方々のために大きな流れについて書きます。

昨日、ブッシュ大統領は、石油備蓄停止、放出により原油急騰に対応する考えを明らかにしました。でも、個人の立場では、こんなときこそ将来に備え、資産の一部で天然資源備蓄を考えるべきではないでしょうか。

まず、現在の状況を改めて考えてみましょう。

金のみならず銀、銅、亜鉛、そして勿論原油と、天然資源全般が世界的に買われて史上最高値更新が相次いでいます。

これは世界的景気回復に加え、中国、インドなど人口10億以上を抱える国の高度経済成長が続き、需要全般が急激に伸びる、或いは増加する予測が出ているためです。

更に、天然資源が世界的カネ余り現象(=過剰流動性)のなかで、新たな投資対象として特に年金など機関投資家に買われるようになったことも見逃せません。

株、債券など投資の主流のマネーのフローを大きな河に喩えれば、その近くの人里離れた、これまであまり人も近づかなかった湖に、突如、大河から運河が引かれて大量の水が一気に流入し始めたようなものです。湖の水位(=価格)は一気に上昇。それが噂(=ニュース)となり、訪れる人たち(=投資家)も急増中です。

水位が下がるには、湖の拡張工事(=増産)が必要ですが、それほど柔軟に対応はできません。特に、金は希少資源の典型であり、今のペースで採掘が進めば30年以内に資源は枯渇します。新たな鉱床発見の可能性もありますが、海底とか凍土の下とか過酷な自然環境のなかで、金価格600ドル程度ではとても採算には乗りません。実は、金の需給は、これまでも毎年鉱山会社が新たに生産する金の量(だいたい2500トン前後)だけでは、宝飾需要だけでも賄えない状況でした。それでも、これまで採掘された金がリサイクル還流して生産不足を補っていたのです。特に、欧州の政府、中央銀行が売却する金なども貴重な供給源でした。それも、先高感が強まると、細ってきています。逆に、中国、ロシア、中東など膨張する外貨準備を抱える国のドル離れ、資産分散の過程で金購入が検討されるほどです。

この状況に目をつけたのが欧米の年金基金。これまでの株、債券という主流の運用資産の一部を金などの天然資源に廻し始めたのです。それを可能にしたのが金ETFなどの新型金融商品の開発。大河から湖への運河の開発です。

こうなると、どう見ても、湖の水位はそう簡単に下がりそうにはありません。問題はどの水準で新たな水位が安定するかです。今が最高水位に達したという感触は未だありません。但し、短期的には大河からの流入量が細ったり、場合によっては逆流することもあります。これは先物市場の投機的売買の影響です。けれども、長期的に逆流が続くことは考えられません。

筆者が思うに、こういう状況下では、個人も天然資源の備蓄を資産保有の一環として考えるほうがトクだと思うのです。それを可能にする手段も開発されています。

21世紀の価値観は大きく変遷しています。天然資源とかハイテクなどの技術には思わぬ高値がつきます。けれども、おカネの値段ともいえる金利は金余り現象のなかで歴史的低水準です。ヒトの値段も、サラリーマンの給料は企業業績回復ほどには上がりません。今や、株主本位の経営です。ですから、個人投資家の資産運用も発想の転換が必要だと思うのです。

金にはアンチゴールドというか拒否反応を示す人たちも多く見られます。

まず、金=投機という固定観念。機関投資家の人たちも、為替差損を出しても、まぁしょうがないかと許容されても、仮に金売買でちょっとでも損を出したら、言わんこっちゃない、投機に走ったからだと周りから後ろ指を指されます。でも、欧米で金を買っている年金に言わせれば、金でインフレや株安のヘッジをしていないポートフォリオのほうが裸同然の無防備でリスキーなポートフォリオなのです。これも発想の転換でしょう。

更に、アンチゴールドの議論としては、金は金利も生まない、また人の役に立たない無用の長物だと。前者は事実です。金現物を買っても、その投入資金は運用されるわけではありませんから、利息は付きようもありません。でも、運用しないから信用リスクも起こりようもない。これも従来の発想からの転換でしょう。実物資産の特徴として"紙くず"にはならないという、まぁ当たり前のことですが、実は、この理由が日本人投資家意識調査で金購入理由のダントツナンバー1(50.9%・WGC調査)となるご時世なのです。

それから、金は役立たずというのは男性に多いですね。女性はツタンカーメンの時代から金=宝飾という用途を知っています。金の世界的需要の7割以上は宝飾用です。女性が身を飾るという欲求がなくならない限り需要は無くなりません。更に、近年は、パソコン、携帯にも金がハイテク用として使われています。

こういう天然資源を個人として備蓄しておく手段として、お奨めは純金積立です。まとめ買いせず、毎月、身の丈に合わせて少しずつ金を買い増してゆく方法です。どの程度という目途は、長期的に財産の10%前後。

昨日、筆者は商品関係の国際会議に出席し、パネルでスイスのプライベートバンカー(個人銀行)と一緒だったのですが、その人も資産の15%までを金で、というアドバイスをしていました。

また、買い始めたら、デイトレーダーのマネなどせず、日々の価格変動にあまり囚われない、つまり、色気を出さないことも大事ですよ。これは人間の欲望との戦いですけどね。

2006年