豊島逸夫の手帖

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米中間選挙後 金9ドル急落

2006年11月9日

予想通りの民主党勝利。噂(或いは予測)で買って、ニュースで売るという典型的なパターンとなった。唯一の想定外のでき事はラムズフェルド国防長官辞任。実は、今日の米国各紙の見出しは民主党勝利ではなくラ長官辞任である。

ブッシュも敗北は想定内。当然、そのケースに備えて危機管理策は用意していた。それがイラク戦争の"A級戦犯"更迭という象徴的人事。間髪を入れずに、この切り札を切った。"米国民よ。あなた達の意見は分かった。私もそれに直ぐに答えようではないか。"といわんばかりの政治的ジェスチャーとも言える。記者会見でもブッシュの発言は民主党の勝利を称え、これからは二党で国を守ろうというトーンで満ちていた。

今回の選挙報道で最も目立つ表現が、gridlock。すれ違えないほどの狭い道で対向車どうしが"道譲れ"とわめいている状況だ。Goldilocksのあとのキーワードはgridlockである。二党拮抗。民主党勝利といっても大統領は拒否権を持つ。歴史的にgridlockの時期は大幅な経済政策変更も実現しにくい。大きな変化はない。そこにNY株式市場は安心感を見出している。

金市場の受け止め方はもっと、もっとクール。この3週間ほど、入れ替わり色々な欧米市場関係者と意見交換してきたが、彼らの見方は筆者の従来からの見解とほぼ同じである。結局、どっちが勝ったって、中東が平和になるわけでもない。双子の赤字が減る目途がついたわけでもない。ブッシュへの実質的不信任投票は、米ドルへの不信任と受け止められる。目先、金利差要因でドルが買われたって、いずれ構造的要因に根ざすドル離れが顕在化するだろう。

今日、金が売られたのは 当面の上値を突き抜けられなかったゆえの反落。当面の材料出尽くし感に起因する投機筋の手仕舞い売りである。

さて、筆者の今後の注目するところはこうだ。ラ氏更迭を経て、米国は現実的かつ本格的なイラク戦争出口戦略の模索に入る。それは、イラク情勢の更なる混沌を予感させる。一部には、イラク3分割案(シーア、スンニ、クルド各地域)も浮上している。もし、そんなことにでもなれば、周辺のイラン(シーア)、トルコ(クルド)の介入は必至。イスラエル、シリアも黙ってみているはずもない。既に、イラク国内は実質的内戦状態である。国防長官をすげ替えてどうにかなる状況ではないのだ。

ここのところ中東情勢といえばイラン核保有にばかり注目が集中していたが、来年は米軍のプレゼンス(存在感)弱まるイラク国内情勢がマーケットの材料として復活しそうな兆しが出てきた。

2006年