豊島逸夫の手帖

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長寿リスクをヘッジする長寿債

2006年11月27日

長寿とは、まことにめでたい話なのだが、こと年金運用担当者にとっては年金受給者が長生きするというのは年金支払いが増えるというリスクとなる。元気な老人が溢れる高齢化社会では、このリスクがハンパではない。そこで、新たなビジネスチャンスを狙う投資銀行の商品開発部門が、このリスクをヘッジするための商品、名づけて"長寿債"を考案した。65歳以上の死亡率によりクーポンが変動する長期債券である。"死亡債"などというネーミングもあるが、これはマーケティング上、ちょっとねえ。

とにかく、こういう商品が成り立つためには、マーケット内部に、長寿即ち死亡率が低くなると(儲かるとは言いにくいから)経営体質が良くなる参加者が必要である。この場合は、それが生保業界だろうか。生命保険会社の最大のリスクは災害などで一挙に死亡者が増えることであろう。(それゆえ"災害債"などという商品もあるそうな。)

さて、この長寿リスクヘッジの必要性は なにもプロに限ったことではない。個人投資家だって、長生きすれば、それだけカネが必要になる。或いは、より長い期間に亘って自分の財産の価値変動リスクを心配せねばならない。そういう意味では、年金運用対応の金ETFも、高齢化社会なればこそ売れる商品かもしれない。マーケットトレンドに乗った商品なのだろう。

その金市場は、ドルの対ユーロ19ヶ月ぶり安値を映し、630ドル台乗せ。ドル円は115円台突入。前回書いたように115円の防波堤は手ごわいよ。でも(円キャリー巻き戻しの)津波がその防波堤を超えたら、(円高)洪水警報発令だ。外為も金も、相変わらず、中国人民銀行首脳の運用分散発言などを囃している。金市場のマーケットトレンドは、これまでの原油高、インフレ懸念からドル信認低下にシフトしつつある。ロシア、中東、中国などのドルからの脱出傾向がテーマなので、"ドル離れ相場"とでも名づけよう。

なお、円キャリーを使った商品開発で、へェーと思ったのは、東欧の円建て住宅ローン。低金利通貨=円で借りて、マイホーム買おうという発想だ。日銀が、今や世界の住宅金融公社になったということか。グローバル化が進展するなか、日本だけがゼロ金利を続けていれば、おカネが高金利国へ流れることは必定。日本国民はドル預金などを通じて資金を海外へシフトさせ、外国人は低金利の円を借りる。そこに悪乗りするヘッジファンドが参入してくると思わぬ市場の乱高下で皆が迷惑する。人の性の善なるは、なお水が低きにつくごときなり、と言ったのは孟子様だが、人の性の悪なるは、カネの高きにつくごときなり、とならないようにしたいもの。

2006年