豊島逸夫の手帖

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ゼロ金利解除されて

2006年7月19日

本欄7月13日付け"今度はレバノン侵攻ときた"でこう書いた。

さて、問題はこれから。地政学的要因の連発で600ドルからほぼ一気にここまで"通勤快速"みたいに途中駅をすっ飛ばして来たが、停車すべき駅まで停車せず通過してしまったような感はあるね。過密ダイヤの通勤快速にはあり得ないことだが、相場には引き返すという可能性が常にある。一過性の地政学的要因がたまたま同時多発となったわけで、これだけでは現水準を支えられないと思う。これまでも何回も書いてきてシツコイようだけど(最近読み始めた読者もいるゆえ)有事の金だけに乗って買い始めるのは危険。ハシゴはずされることが多いから。あらためて金が上がっている7つの理由(有事の金を除く)を噛み締めるべし。

その通勤快速相場は一時670ドル近くまですっ飛ばし、市場に700ドル説が出始めた途端に引き返しを始め、本稿執筆時点(7月19日朝8時)で630ドルまで急落。金の教科書の題材にでもしたくなるような有事の金"売り"のパターンとなった。今後は、地政学的リスクが相場の下支え要因として作用すると理解したほうが良いだろう。

さて、もう一つの大きな材料であったゼロ金利解除、いざ実行されたところで、マーケットの反応といっても、即目立った動きが出るわけではない。それでも、0.25%の金利上昇という事実の痛みを真っ先に感じるのは、借金をしている人達だ。個人なら住宅ローン。そして、ヘッジファンドやディーラーなどのプロも同様。というのは、彼らの多くは、そもそも人のカネを借りて相場を張っているからだ。

この人達には0.25%でもずっしり効く場合がある。それは相場を見誤りアゲンストになったときだ。自営業に喩えれば、貸家で営業しているケースで売り上げが減少して家賃支払いがボディーブローのように効いてくる時と同じといえば、実感としてお分かりいただけるだろう。プロにとっては金利の分だけハンディ戦を強いられているわけだ。これまではタダ同然のカネを借りて、目いっぱい相場張っていた連中が、途端に萎縮してきた。世にキャリートレード後退といわれる現象である。

事実、先週から今週の急騰急落局面で、現場のトレーダーの最大の実感は"流動性が減ったなぁ"ということだ。プロの市場参加者が減ったので、以前のようには売り買いの相手が直ぐには見つからない。見つかっても売買スプレッド(売値と買値の開き)が広すぎて、まともに取引できるような値が出てこない。結果、ほんの少量の売買(流動性)で値だけ大きく飛ばす(変動する)という現象が生じる。

そもそも日銀の量的緩和解除の時点から、日銀の引き締め転換が世界的なリスクマネーの撤退現象を引き起こした震源地みたいに(欧米市場では)言われてきた。数十兆円のおカネを日銀が引き揚げたので、カネ余りが引っ込んだという解釈だ。その確証はない。筆者も"そうかな?"とも思う。まぁ、一因にはなっただろうが。

そして、今回のゼロ金利解除。プロの間の売買流動性は確実に薄れてきた。

それと対照的に、個人マネーは(日本に限らず)とりあえずキャッシュで雨宿り中だが、いつでも再出動できるように準備中のようだ。これは各種セミナーでの実感。

ゼロ金利解除でおとなしくなったプロ。そわそわ うずうずしている個人。投資の世界も二極化進行中である。

2006年