豊島逸夫の手帖

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ハードソフトランディング

2006年8月31日

夏休みモードも今週末の米国レーバーデー ウイークエンドまで。来週からいよいよ秋のマーケットが始まる。

今月を振り返って、最も意味ある動きは、債券市場の米長期金利低下であった。一時5%を超えていたのが、直近は4.7%台まで下落している。次々発表される米経済指標が減速傾向を鮮明に印象づけ、原油価格も反落するなかで、インフレ懸念後退を映す数値といえよう。金市場を取り巻く秋のマクロ経済環境のポイントは、米経済減速の影響である。まずは、8月後半に600ドルすれすれまで売り込まれた金だが、600-610ドルの水準で跳ね返され620ドル近くまで戻ってきた。利上げモード終焉という買い材料と、インフレ懸念後退という売り材料が拮抗している現状である。

なお、減速傾向のスピードが問題なのだが、最近聞かれる言葉が"ハードソフトランディング"。ハードとソフトの中間。空港周辺が(中東、原油などの)嵐のなか、(キャプテン バーナンキの)慣れない操縦ながらクラッシュすることもなく、なんとかランディングしつつある、ということだ。高速道路を100キロで運転していた車が、普通道路に降りて60キロの制限速度で走行という喩えもある。車内で感じる減速感は相当だが、立派に60キロは出ているというわけだ。

住宅市場は間違いなく落ち込んでおり、不動産価格上昇=消費者の資産効果に起因する過熱感は収まったと言える。しかし、それが住宅バブル破綻という最悪の事態になるかという点になると、現状では、そこまでのクラッシュはなさそうだ。

その意味では、極端なシナリオに基づく金価格上昇ではなく、オーソドックスなシナリオで、中国、インド、欧米年金、オイルマネーというこれまでの買いの主役が健在の"秋の場"になりそうだ。大台突破のきっかけとしては、やはり想定外の地政学的要因による突発的推進力が考えられる。

2006年