豊島逸夫の手帖

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550ドルの攻防

2006年2月9日

それにしてもオーバーナイト(一晩)でグラム100円も動くと、店頭に来た顧客も口あんぐりで、あっけにとられた様子。ボードを見て、桁が違うんじゃないの、との指摘も。売りに来た顧客は、24時間違いで、この差はあんまりだと落胆して、そのまま帰宅。買いに来た顧客は、24時間でこれだけ下げるとなにかあるんじゃないかと気味悪がり、そのまま帰宅。問い合わせばかりが目立つ店頭風景である。無理も無い。しばらく調整らしい調整もなかったから。その分、根雪の上に積もった新雪も深く、一旦雪崩が発生するとその規模も大きい。

とりあえずは550ドルで下げ止まった。昨日はWGC社内の電話会議でアジア中東の事務所からの様子を直接聞き取り調査したが、やはり現物買いが活発化しているという。但し、日本の店頭と同じく、下げ幅の大きさに警戒感も見られるという。

海外の論調を見ても、こういう雪崩が起きると、もう雪山は危ないと見て登山家も足が遠のくだろうというニュアンスのコメントが出始める。今の、商品市場への資金流入、その代名詞的な金へのマネーシフトも単に投機的ヘッジファンドの動き、などどいとも簡単に片付けられがちだ。あまりに短絡的な見方といわざるを得ない。これまで危険が伴うからと近づけなかった山に、登山道が整備され、教育されたガイド役も配置され、高度な気象情報も入手できるようになった。他の名だたる山は殆ど制覇されたなかで、この未知の山に多くの登山家が訪れるようになった。それは、雪崩が起きた程度で止まるような流れではない。

グローバルなポートフォリオ分散過程で、選択肢のひとつとして、じわじわと金へマネーが流入しているというマクロの視点を忘れてはならない。

さて、グリーンスパンさんが健在である。早くも、民間金融機関とかイベント会社主催のセミナーで講演しまくっている。昨日は、香港の会社主催のセミナーが東京で開催され、NYの自宅から衛星回線経由でビデオ演説したとのこと。金についても触れ、現在の金価格上昇は、インフレ懸念というより、テロ懸念に基づく動きと発言。さすが、FRB議長辞めても、インフレファイターとしての誇りは失わないようだ。

彼の在任中の金に関する発言では、1995年での上院議会証言が金の歴史に残るコメントだ。その当時、欧州中央銀行の金売却が相次ぐなかで、わが国はどうするんだと突っ込まれ、"金は究極の価値を持つゆえ、売らない"と断言した。そのあと、金売却に走った英国は、結果的に300ドル以下で400トンもの金を処分してしまい、今や、国会で大問題になっているのと好対照。

ちなみに、グリーンスパンさんの講演料、幾らだと思う?自宅のソファーに座ったままで、1時間で12万ドル=1300万円ほどだと!

2006年