豊島逸夫の手帖

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急騰の幕開け

2006年9月6日

レーバーデー明けの9月5日NY市場は10ドル以上の急騰で再開した。本稿執筆時点(6日朝8時)スポットは637ドル。まだ、ご出産のご祝儀買い程度に見ておいたほうがいいが。

今回は、足元の市場環境のおさらいという意味で、諸材料をたな卸し吟味してみよう。(順不同)

―インドはいよいよ10月の婚礼シーズン入り。花嫁の父の頭痛の種は、"持参金"の相場上昇。高くても可愛い娘のために奮発せねばならぬ。このような婚礼需要は、経済学的に言えば、"価格弾力性が低い" つまり、価格の変動にはさほど影響されないのだ。

―第二次ワシントン協定も今月末で年度替り。駆け込み売却の気配も無く、今年度は遂に年間売却枠500トン未達となりそう。この未消化分は翌年度に繰越できない。つまり、市場にとっては、見込んでいた売却の未実現ということになる。

―マクロ経済を見れば、米国景気減速傾向顕著。原油価格70ドル割れ。インフレ懸念後退(これは売り材料)。5.2%台まで上昇していたドル長期金利は4.7%台まで下落。ドル短期金利は利上げ最終局面との認識から、来年にかけ利下げ転換観測も出始めた。これはドル売り(金買い)材料。総じて、金価格へのインパクトは強弱交錯する状態だ。

―金ETF残高は489トン。(この残高統計の把握には3種類の方法があるが、当欄では、増減トレンドを明確にするため、これまでの方法を踏襲する。)ここ2週間ほど、さほどの変化見られないが、9月以降は着実に増加傾向を持続すると見られる。新規上場も視野に。

―中国関連では、人民元切り上げ問題が焦点。新任米財務長官で中国通のポールセンの北京訪問も予定され、米国側からの圧力も強まりそう。これはドル売り要因となろう。

―地政学的要因はと見れば、中東、北朝鮮、アルカイダ等、陳腐化した感は否めない。とはいえ、イランの強硬姿勢が国際的制裁へ発展し、ホルムズ海峡封鎖などという事態を招けば、マーケットも無視できないであろう。また、本欄でかねてから注目しているパキスタンがテロリストの養成基地という認識から欧米の介入を招く可能性もある。

―下げ要因としてマークしておくべきポイントは、スタグフレーションの可能性だろう。日米とも経済指標を見る限り景気の行方に黄色信号がともるなかで原油価格は高止まるというストーリーだ。スタグフレーションの行きつく先は世界的保護主義。近隣窮乏化政策(通貨切り下げ合戦)。世界的経済縮小均衡。これで潤う投資セクターはまず無いという意味で"しょうもない"シナリオである。まぁ、そうなったら、資産運用などということは忘れ、ひたすら生活のレベルを落とすしかない。

以上、強弱材料を天秤にかければ、買いのほうが優るのは明らか。それを先取りした昨晩のNY金急伸と言えよう。

2006年