2006年1月11日
今年も中国が金市場の主要テーマのひとつである。特に、本年は、公的部門の金準備増強と民間部門の個人投資需要拡大が話題になろう。
前者については、前回に既に述べた。これは直ぐに実行される案件ではない。ポイントは、準備資産運用を担当するSAFE(外為管理局)と、人民元の対ドルレートを管理する中国人民銀行の間にトレードオフ(目的の矛盾)があることだ。準備資産の運用分野拡大のために保有ドル資産を売れば、人民元レート上昇を加速させてしまうからだ。(本来は準備資産運用も純然たる人民銀行管理マターなのだが、それをSAFEに持っていかれたという怨念もあるしね。外電でも人民銀行幹部の懐疑的コメントが伝えられている。幹部といっても欧米で教育受けた30歳代のワーキングウーマンなのだよ。一件普通のOL風にしか見えない。)
それでも方法はある。G-G取引。Government-to-Government. 場外の政府間直接売買取引である。欧州の中銀は毎年500トンの金をワシントン協定に準じて売却している。それを、中国が買えばよいこと。市場へのインパクトは最小限に抑えられる。前例はある。1990年代にオランダが金を売却したとき、BIS(国際決済銀行)を通じて一部を中国が引き受けたといわれるのだ。
いずれにせよ、時間はかかるが、市場へのインパクトは、噂の段階が一番の花。現実のニュースになったら"織り込み済み"のレッテルを貼られる。"噂で買ってニュースで売れ"。これディーラーが最初に叩き込まれる相場のABCである。
90年代は次にどこの中銀が売るかで市場は戦々恐々とした。それが今は、次にどこの中銀が買うかで大騒ぎである。この事実だけでも市場のセンチメントが180度変わったことが分かろう。
さて、中国の次の話題が民間部門である。昨年、民間の四大商業銀行が相次いで金業務を解禁された。具体的には金融監督庁にあたる監督官庁から金業務の許可を得た。しかし、本来の銀行業務習得も未だ完全ではない状況で、全く異端の金業務取得までとても手が回らない、というのが実態である。行員教育、現物保管搬送等のロジスティックス、ディーリング部門設立等々、インフラ完備には時間がかかる。それでも、上海など大都市圏の支店から試験的に開始され、徐々に進行している。今年中には売買実績もボチボチ出てきそうだ。ある時期に急激に伸びるだろう。きっかけは相場だと思う。2006年は中国の民間部門における本格的金投資元年となろう。WGCが日本で進めているGA(ゴールドアドバイザー)制度も、今年は中国に拡大される。筆者も教育セミナーで中国各地に駆り出されることになりそうだ。
最後に、足元の相場はやっと一服。欧米では前日比6ドル安。この程度では全く動いた気がしないのが怖いといえば怖い。
新規材料はイランの核研究再開発表の地政学的要因。これは成り行きを要注意だよ。E-3(英、独、仏)もこれで米の対イラン強行姿勢にNOとは言えなくなった。あとはロシアの出方次第だ。
今後の展開は、このまま600ドルまで突っ走れば、逆V字型に終わる。急騰―急落のパターンで振り出しに戻る形だ。それに対し、急騰―調整のパターンを繰り返し、下値を徐々に切り上げてゆくパターンをとれば、持続性のある上昇が続く。筆者は後者の展開になると思っている。