豊島逸夫の手帖

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Goldilocks(ゴールディロックス)

2006年3月13日

米国の雇用統計が下馬評どおり良い数字が出たことで、金市場は予想通りの反応を見せた。つまり、利上げ継続観測が強まり、金は売られた。発表直後のNY市場では一時535ドルを割り込む場面もあったが、ほどなく買い直された。終わって見れば540ドル台に戻し、本稿執筆時点(3月13日朝7時)でスポット541ドル。NY市場では、空売り(ショート)を仕掛けたものの、週末にかけていつ地政学的要因のサプライズが出るかもしれず、宵越し(オーバーナイト)のショートは抱えられない。デイトレードに徹し、その日のうちに買い戻すということになったのだろう。

日本の量的緩和解除=過剰流動性縮小=キャリートレード巻き戻し=金手仕舞い売り、というシナリオも、終わってみれば、ゼロ金利当面維持という解釈が市場内では優勢となった。そうならば、過剰流動性に代表されるホットマネーの一団も、もうひと暴れできるかという色気も出てきたという事情もある。同様の講釈で外為市場ではゼロ金利維持の円が売られ、ドルが買い直されている。

以上がディーラーの目で見たマーケットであるが、アナリストの目で見るとこうなる。

今回の米国雇用統計に対する市場の評価に関しては、Goldilocks(ゴールディロックス)を示唆する数字と言われている。一年前の2005年3月8日にも同名のタイトルで書いたことだが、ゴールディロックス経済というのは、インフレ懸念は顕在化せず、デフレは脱却したという経済の黄金状態を指す。今回の雇用統計は、完全雇用に近い経済の繁栄(prosperity)と、同時に物価は安定(stability)している状況が目下実現していることを表していると理解されるのだ。そうであれば、インフレヘッジとしての金も当面必要ないし、デフレスパイラル現象としての信用破綻リスクに対するヘッジとしての金の出番もない、ということで金は売られる。

とはいえ、今の経済はめまぐるしく変る。ゴールディロックスが継続するか否かは別問題である。そこで、バーナンキの手腕が問われる。特に、グリーンスパンが残した負の資産といわれる米国経済の赤字体質という構造的問題には未だ手付かずである。経済のフローを見れば確かに順調に廻っているが、ストック面を見れば、膨大な赤字が蓄積しているわけだ。その赤字解消のためにはインフレ政策かデフレ政策が必要となる。そうなると金は買いとなる。やはり長期的には金の上昇トレンドに変りはない。

足元では利上げ継続で金は売りモードにあるが、米国の利上げサイクルは最終段階にある。金市場はFFレート5%まで上昇(即ちあと2回の利上げ継続)を織り込んで530ドル台へ下げた。3回目が無ければ、530ドル台以下へ下げる必然性は無い。

なお、今週は米国で消費者物価上昇率とか経常収支が発表となる。名目金利は利上げ継続だが、本当に意味のある実質金利はどうなるのか、という意味で前者は重要。双子の赤字という構造要因を代表する統計という意味で後者も重要。だが、サプライズはなさそう。月々の雇用統計ほど大きく振れる数字ではない。マーケットが金を買い上げたければ囃すし、売りたければ無視するだろう。

2006年