豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金価格、内外で新高値更新(初心者向け)
Page092

金価格、内外で新高値更新(初心者向け)

2006年1月31日

このような見出しが珍しくなくなりました。昨晩(1月30日)のNY金先物市場の終値は570.60ドル。これは引け値ベースとしては1981年1月以来の高値です。本稿執筆時点(1月31日朝7時)でもスポットで569ドルをつけ、570ドルを窺う気配です。ここまで来ると600ドルもはっきり視野に入ってきますね。今回は、為替も117円台の円安気味なので、国内金価格も高値更新です。昨年12月に海外金高と円安のダブルで急騰したことを思い出させる展開になってきました。

そこで、今日は、本欄を最近読み始めた初心者向きにこれまでの動きと見通しをまとめて見ましょう。

今回の上げの主役(買い手)は何と言っても欧米の年金基金です。金ETFという商品を通じて418.94トン(1月30日現在の買い残高)もの金地金(現物)を購入しています。これは、中国の年間金需要量の2年分に匹敵します。

金ETFというのは、簡単に言えば、金地金のみで運用する投資信託です。NY、ロンドン、パリ、シドニーなどに上場されています。投機的な先物売買と異なり、100%金現物の裏づけがあり、インフレヘッジ、株安ヘッジなどの目的で長期保有されることが特徴なので、年金保有に向いているのです。

それでは、年金がなぜ金を大量の購入しているのかと言えば、直近ではイラン情勢の悪化やハマスの地すべり的選挙勝利、そしてビンラディンの米本土再度攻撃予告という(専門的に云うと地政学的リスクの高まり)が挙げられます。

イランの核保有を巡っては、米欧露中そしてイスラエルがにらみ合い一触即発の危機と言っても過言ではない状況なので、有事の備えとして金が買われているのです。特に金市場は、25年前に、イラン革命とかテヘラン米大使館人質占拠事件をきっかけに、875ドルという史上最高値をつけた歴史があるので、イラン関連の材料にはことのほか敏感なのです。中東情勢が悪化すれば原油価格にも影響するし、株や債券の価値が下がる局面も多くなるので、長期運用の年金基金が資産価値を守るために金へも分散投資しているわけです。

その原油価格が再び史上最高値に接近し、インフレ懸念が再浮上していることも大きな要因です。

そして、米経済、米ドルへの不安が加速し、これまでドルに投資されていた資金がユーロや日本株、そして金などに流入している現象も重要です。ドル金利が上昇して、とりあえず金利稼ぎ目的でドルで運用する取引が顕著なので、外為市場ではドル高ですが、これはあくまで短期的現象。昨晩も米国経済統計で、米国民の貯蓄率が(大恐慌以来の)72年ぶりというマイナス0.5%と発表されました。双子の赤字で台所は真っ赤なのに、出掛ける時は忘れずにクレジットカードを持ち歩く結果でしょう。一見羽振りがよい紳士なのに、借金漬けという実態に不安感を抱く世界の投資マネーが(年金に限らず、国の運用する外貨準備資産に至るまで)ドル離れ現象を惹起していると言えましょう。(プーチン大統領も、原油高で潤う国庫の分散運用の一環で金購入の可能性に言及するほどです。)

そして、この世界の投資マネーが膨張しています。過剰流動性と呼ばれる現象です。その張本人が今日いよいよ退任するグリーンスパンFRB議長。就任直後のブラックマンデーなど、米経済が危機に直面する度に大量のドル資金を市場に注入して救いの神となり、金融の神様と言われるようになったわけですが、その大量注入されたおカネがマグマのように蓄積して過剰流動性と化し、世界中の金融市場を廻っているのです。金市場では、ゴルフに喩えて、グリーンスパンはバンカーという危機脱出は上手いが、同時に多くのバンカー(危機の種)をコースに造って残したとも揶揄されています。

これらの要因以外にも、中国、インド、そしてオイルマネーの金買いなど、いくつもの材料、それも一過性とはいえない根の深い問題(構造的複合要因)が絡み、持続性のある上昇トレンドとなっているのです。高値圏にも関わらず、なお先高感が強いのはこのためです。金以外の銀、プラチナ、そして銅、亜鉛、アルミの類まで高値を更新して、鉱物という天然資源が金融商品化している現象も無視できません。

最後に潜在的下げ要因も見ておきますと、後継のバーナンキ新FRB議長が、利上げを継続し、かつ、原油価格が広範な物価上昇には波及しないケース、そして、中国経済減速のシナリオなどが考えられます。とはいえ、これまでの複合要因の全てが同時に消滅する可能性は非常に低いでしょう。

2006年