豊島逸夫の手帖

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プラチナ相場の見通し

2006年11月13日

実は筆者がスイス銀行でディーラーをやっていた時に、会社への"あがり"というか貢献度が最も高く評価されたのがプラチナであった。(銀行が鵜匠、ディーラーが鵜のような関係であった)。銀行を辞めるとき、記念品として会社がくれたのが、ノーブルというプラチナコインだったほど。だいぶ前に、日本経済新聞本紙の"私の記念品"というコーナーにプラチナコイン持つ写真で登場したとき、業界の人達がびっくりしていた。業界の常識としてはWGC=ゴールドだからだろう。どっちも貴金属なのだが...。

さて、そのプラチナがETF導入の噂に乱高下中である。セミナーでも質問受けることが多くなったので、相場状況をここにまとめておく。

まず、需要構造を見ると、宝飾中心から自動車排ガス清浄化触媒需要中心へ明確にシフト中である。GFMSのデータによれば、1999年と2006年を比較すると、宝飾44%→23%、触媒30%→53%というシェアーの変化が見られる。第四次EU排ガス規制導入とかCSF(煤煙フィルター)の装備拡大傾向などが追い風となっている。対して、宝飾は、プラチナ価格高騰に誘引されたパラジウムジュエリーの出現が足を引っ張っている。筆者も、中国でパラジウムジュエリー人気の話を聞いたとき、最初はまともには受け止められなかった。しかし、ユーザーは(業界人が持つほどには)素材へのこだわりが強くはない、という例であった。

この傾向をGFMSは、プラチナ需要の価格弾力性が低くなったと説明する。つまり、短期的には価格の影響を受けにくくなったということ。宝飾需要は価格効果が左右するが、触媒需要には所得効果(景気循環による自動車販売の変化)のほうが強く出る。結果的に、プラチナの需要構造は短期的には安定化傾向に向かっているとも解釈できる。但し、中長期的にはガソリンエンジン分野においてパラジウムによる代替が進行中であることを忘れてはならない。

もうひとつ2006年のプラチナ市場の特徴として、1998年以来の供給超過への転換があげられる。1999-2005年の間は一貫して需要超過が続き、440万オンスの地上在庫が二次的供給源として売却された。それが、2006年には20万オンス程度の供給超過に逆転するというのだ。相場高騰に刺激された増産、自動車触媒のリサイクル増、そして地上在庫の逓減傾向などが背景にある。

以上を見てくると、プラチナ市場は需要と供給の微妙なバランスの上に成り立っていることが分かると思う。そこにETFが導入されれば一気に需給バランスが変わる。そこに噂が出やすい土壌ありとも言える。投機筋がはやすには格好の材料なのだ。

冷静に考えれば、ETFを通じて巨額の投資(投機)マネーが参入したとして、買うのはいいが、売り抜けられるか否かを考えれば、どうなるか結果は火を見るより明らか。売りの素振りでも見せた途端に他の投機筋に売り浴びせられるだろう。市場規模が金の1/20ということはマーケットの流動性も遥かに限定的なのだ。筆者が好んで使ってきた喩えを使えば、金魚鉢に鯉が入り込んだような状態になる。鯉がなんとか脱出したにせよ、あとの鉢(=マーケットという器)に水(=流動性)は殆ど残らない。

だから筆者はプラチナETFの噂などは一笑に付している。

とはいえ、長期的にプラチナには新規需要拡大の夢があるし、環境にやさしい素材でもある。宝飾素材としても女性(特に日本人)には根強い人気がある。だからプラチナを買うなら、大原則はbuy and holdそしてbuy and forget買ったら忘れること。ボラ(短期的価格変動)がディーラーでも心臓が飛び出るほどだから、素人がまともに毎日相場などチェックして持ち続けることは精神衛生上好ましくない。でも、買えば毎日の相場が気になることも事実。シニアの人達も物忘れは得意技のはずなのだが、こと相場になるとforgetすることが如何に難しいことか。所詮、己の欲との戦いの毎日となるわけで、それに対し、自分をコントロールできる自信がある人なら、プラチナ長期保有を勧めるが・・・。

2006年