豊島逸夫の手帖

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ヘッジファンド巨額損失-続報

2006年9月26日

9月19日速報のアマランス アドバイザーズ(Amaranth Advisors)天然ガス取引による60億ドル損失の顛末を調べてみた。

同ファンドは、債券市場で転換社債の裁定取引により名を上げた。おいしいところを吸い上げたところで、次に目をつけたのがエネルギー分野。新分野参入に際しリクルートしたのが、元ドイツ銀行のブライアン ハンター氏。彼は、米国天然ガス先物取引で成功を収めたが、その後、巨額損失、更に取引枠逸脱の理由で解雇。いまだ法廷で係争中。

彼は、アマランスで2005年に8億ドルの収益をあげ、一躍同ファンドの価値を30%アップに貢献していた。その実績に、大手金融機関がファンド オブ ファンズを通じて出資するに至る。

まず、ゴールドマンサックス。彼らのファンド オブ ファンズ=GS ダイナミック オポチュニティーズは、全資産の5%程度をアマランスで運用。9月期には2-3%の損失計上という。(dynamic opportunitiesという名前が、どうにも皮肉だね。儲けも損もダイナミックということか...)

次にモルガン スタンレーが1.25億ドルを出資。クレディスイスは1.4億ドル。その他、バンク オブ ニューヨーク、ドイツ銀行、マン インベストメンツ等々、そうそうたる名前が並ぶ。

そこで、これは問題だね、との批判も当然浮上中だ。

そもそもファンド オブ ファンズというのは魑魅魍魎、玉石混淆のヘッジファンドへ投資を試みる素人衆のために、"玉"だけをプロの目で選りすぐってあげますという仕組みだ。総資産の2%、儲けの20%といわれるヘッジファンドの安くない手数料に、更に上乗せしてファンド オブ ファンズのチャージを投資家は払う。

その挙句がこの結果では、"プロの目"(due diligence =ディユーディリ)が疑われてもしかたない。プロのサイドから見れば、高い手数料を貰うからには、相当のプレッシャーもかかり、いきおい、ハイリスク ハイリターンのファンドを狙う誘惑に駆られるわけだ。

ヘッジファンドの天然ガス取引のついては、本欄でこれまでも使ってきた比喩を繰り返せば、"金魚鉢に鯉が入り込んで、出るに出られない状態"を自作自演したということだろう。限定的な市場規模に対して巨額の投機マネーが投入されるとこうなるという典型になった。ゴールド マーケットに見られるような流動性、インフラがここには見られない。

なお、今回の一件が、LTCMの時のような金融危機を惹き起こす可能性は低いと見られる。マーケットだって学習効果により、相当のcontingency plan(最悪の場合に備えたプラン)ができているからだ。それでも、マネーのflight to quality(質への逃避)は散見され、象徴的には米国債が買われドル長期金利低下に一役買う結果となっている。

同じタイミングでタイのクーデター、ハンガリー暴動、ポーランド政治危機、ブラジル政局スキャンダル、南ア経常収支悪化などのニュースが相次ぎ、だいぶ持ち直していたエマージング見直しの動きに冷水がかけられていた(今回はハイ イールドだが経常収支赤字をひきずる国の通貨が売られ、対外準備資産を蓄えてきたアジア諸国の通貨は売られていないが)。

このような市場環境のなかで、リスク マネーは再び頭をすくめ、模様眺めモードに逆戻りの兆候も見られる。息を吹き返していたキャリー トレードの巻き戻しも語られ、外為市場では、その結果の円高説も出ている。

出たり入ったり、相変わらずお忙しい投機マネーである。お金を持たされて何かしないと不安になるような運用中毒症状が進行している。読者の皆さんは、せいぜい"アマランスの場"を高見の見物と決め込み、酒の肴にしましょう。

2006年