豊島逸夫の手帖

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グリーンスパンは金を選択

2006年12月20日

以前にも本欄で紹介したエピソードだが、最近読み始めた読者の方々も多いことゆえ、再び紹介しておく。

グリーンスパン氏は、FRB議長引退後、講演活動を行っており、その講演料たるや、10万ドルとも15万ドルとも言われる。一席1000万円以上だから破格も破格だが、それでも需要があるのだから凄い。

その彼があるヘッジファンド関連のコンファレンスで講演したときのエピソードをCNBCの名物キャスター バルチロモ嬢が語っていた。それは事務局が講演料支払いの事務手続きを説明していたときのこと。"グリーンスパン先生、どの通貨で受け取り希望でしょうか。ドル、ユーロ、円、ポンド、どれにしましょう?"

彼の答えは、一言、"ゴールド"だったそうである。

グリーンスパンと金といえば、在任中の1995年、当時、欧州各国が金売却に走っていたときのエピソードも有名だ。上院銀行委員会で、ある上院議員が質問に立った。"欧州各国は金売却を行っているようだが、我が米国は如何?"そこでグリーンスパンは、金の教科書に残ることになる名言を吐いたのだ。"米国は売らない。なんとなれば、金は究極の価値(ultimate value)を持つ通貨だからだ。"

彼は、FRB議長在任中の18年間に、"通貨の番人"として米国経済の裏表全てを見たはずである。そして引退後、一私人として講演料について聞かれ、ドルではなく、ゴールドを選択した。

全く違う次元ではあるが筆者の友人の中でも、霞ヶ関の経済関連省庁に勤めた連中が、そろそろ退職金なども受け取る年代になり、一私人として、その運用の選択肢として金に興味を示す例が時折見られる。きっと政府の借金800兆円の実態を帳簿で見てきたのだろうな、と思う。

なお、某国のある中央銀行マンは、日経主催のゴールドコンファレンスのスピーチでこう語ったものだ。"我々中央銀行にとって金価格は通信簿の成績みたいなものなんですよ。国民が金融政策の運営を評価して自国通貨に不安を抱かなければ金などは買わないはずですから。"

さて、足元の金価格は、米国経済がGoldilocks状態(熱過ぎず、冷え過ぎず、丁度いい塩梅=インフレでもデフレでもない)との判断から、静かな状況が続いている。インフレ懸念は後退。かといって景気失速による信用リスク増大が懸念されるほど悪くはない。NY株は史上最高値を更新。そのような市場環境では金のようなヘッジ資産の出番についての切迫感は薄い。

問題は、これがいつまで保つか?ということ。バーナンキの金融政策運営手腕を買えば、金は売り。彼の微妙な舵取りに不安を持てば、金は買いとなる。ソフトランディングなら売り、ハードランディングなら買いとも言える。先の話だがバーナンキが引退したあと、一私人としてどの通貨を選択するかも実に興味深いね。

2006年