豊島逸夫の手帖

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分散が効かない悩み

2006年5月24日

昨日は年金関連の勉強会とプライベートバンキング関連のセミナーが重なり、今の金市場の裾野の広がりを実感した一日だった。

年金運用担当者の悩みは、世界同時株安。トリプル安の時も同様なのだが、彼らがしきりに口にする言葉が"分散が効かない"ということだ。彼らが金のような"代替投資"を見る目も、株高のときに比べ、切迫感が感じられる。伝統的アセットクラスの株や債券を補完するオルタナ(代替投資の英語の略称)の一つの選択肢として、金が日本の年金によって買われる時代も近いなと実感。横並び意識も強いから、どこの年金が動いているかという情報のほうが、代替投資の理屈より大事のようだ。あたらし物好きの年金が始めても"あそこならやるだろうね"で終わるが、主流と目されるところが動くや皆の目の色が変わるのだ。

金はリスキー(risky)と言われるけれど、インフレや株安に対するヘッジのない裸のポートフォリオの方がリスキーというのが、今、金を買っている欧米年金の考えだと話すと、同意のうなずきが返ってくる時代になった。

次に向かったのが、日本橋の某銀行プライベートバンキング店舗。無味乾燥な年金の会議室と異なり、カーペットにソファのゆったりした円座のなかで20名ほどの富裕層相手のアットホームなレクチャー(というよりトーク)であった。

聴衆と膝触れ合わんばかりの至近距離で、こちらの一言一言に対する反応がびんびん感じられて、筆者が最も"のる"雰囲気だった。日本の銀行では、元々ゴールドなどはコアの業務ではないから殆ど関心ないのだが、PB部門では顧客から色々金に関する質問が出るらしい。そこで、プロを呼んでセミナーを開催するという顧客サービスとなるようだ。

先日、外銀系のPB部門セミナーに呼ばれたときも感じたことだが、本当のお金持ちは、己のおカネのニオイを消す術を心得ているね。会場のホテルには地下鉄で来るし、身奇麗にしているけどブランド物などの派手さは避ける。世間のジェラシーとか税務当局の目を意識しての行動だと思う。かえって小金持ちくらいの人のほうがライフスタイルも世間で言うところのリッチな感じがぷんぷんするものだ。

今、金を新規に買う富裕層の購入動機は、相続、資産継承と老後のインフレに対する備えの二つが圧倒的。質問も10-20年の超長期相場見通しとか、税金関連が8割ほどを占める。バブル以来、色々なデリバティブなどで苦い経験もしてきているから、金の現物の重みを手のひらで感じて、"これが真の価値だ"と実感する様子が手に取るように分かる。単にリターンのみを追及する若い年代の投資家には、この重みの有難みは未だピンとこないようだが。

さて、今日はブログ風になってしまったが、足元の相場はリバウンド=rebound状態である。金は670ドル台へ反騰。銅などは昨日史上最高の上げ幅と騒いでいる。4月26日付け本欄"個人も天然資源備蓄を考えよう"のなかで、株や債券を大河に、金をその近くの湖にたとえ、金ETFなどの新商品開発という運河がひかれ、湖に大量の水(=流動性)が流入している状況と述べた。そして、短期的には大河からの流入量が細ったり、逆流することもあるが、長期的に逆流が続くことはない、とも述べた。商品価格上昇をcyclical(循環的)と決めつける(そうでないと困る人達も多いから)考えも根強いけれど、構造的変化には逆らえないと思う。寄せては引く潮の満ち干というより、海辺の景色を一変させる津波という方が実感がある。

最後に、経済関連のニュースで目を引いたのが、バーナンキの上院聴聞会における反省コメント。5月2日本欄"バーナンキの市場は誤解発言でムード一変"のなかで触れた米CNBCキャスターのマリア バルティロモ姐さんへのディナー席上不用意な一言に対する反省である。あれはelapse of my judgement=私がうっかりしていた、と率直に述べている。彼女は、本欄4月10日付け"グリーンスパン講演料は金で"の時にはグリーンスパンが講演料を金で受け取り希望したという主催者発の裏話を暴露したり、色々お騒がせではある。"マリアに気をつけろ"が当局者の合言葉になっているそうだ。

2006年