豊島逸夫の手帖

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米経済減速の影響

2006年8月21日

金市場を取り巻くマクロの経済環境は、大きな潮の変わり目を迎えている。

次々発表される米国経済統計だが、物価関連、住宅関連、雇用関連の殆どが米経済の減速を強く示唆するものばかり。特にマーケットにショック効果があったのが、15日の米国PPI(生産者物価指数)。事前の予想0.1%アップのところ、0.3%のダウンに。これ、主なエコノミスト全員が予測を外した。ほぼ全員が、%の数字だけでなく、その方向性(アップかダウンか)まで間違えるのも(いかに振れの大きいデータとはいえ)珍しい。

マーケットの反応は、ドル長期金利が(5%の大台を突破していたのに)4.8%台まで下落。短期金利も、利上げ休止どころか、来年に向けて利下げへの転換が語られるほど。

インフレ懸念の呪縛から開放され、株式は、いち早く急反騰。(でも、本当に景気減速となれば、株式市場だって喜んではいられないけどね。)

レバノン停戦による地政学的リスク後退も重なり、原油は70ドルへ、金も610ドル台へ、それぞれ急落。

金に関しては、紆余曲折あったが、結局夏休み前の水準という振り出しに戻った。これで、夏休み期間限定3Aクラスの試合はゲームセットとなりそう。しかしながら、夏休み明けのマクロ経済環境は、休み前に比べ、上述のようにかなり景色が変わってきた。これから年末にかけて、メジャークラスのプレーヤーが参戦してくる相場の大きなテーマが米経済の減速となった。

その金市場への影響だが、インフレ懸念後退という意味では、マイナス。しかし、金利を生まない金という観点からは、金利下落は素直にプラス。ドル利上げストップ=金利差要因によるドル安と見てもプラス。住宅市場がハードランディングしてバブルはじけるような事態になれば、信用リスクヘッジのための金買いというシナリオもあり得る。

需給面では、世界経済の牽引役の米国がくしゃみすれば、日欧そしてエマージングも風邪ひくという現象が依然起こるだろう。金の実需にも当然影響する。これはマイナス。

ウーム。これは判断が悩ましいな。"方向感出にくい"とか"不透明"などというプロの逃げ口上は使いたくないし。こういう状況のときは、強弱拮抗するマクロ経済要因から独立した、地政学的要因とか、公的金購入とか、大型M&Aの結果としてのヘッジ買戻しとか、他の材料が長期上昇トレンドを中期的に支えることになるのだろう。

但し、本当に米経済減速か否か、いま少し確認する必要はありそう。これまでも、経済データの気まぐれには色々翻弄されてきたからね。

2006年