豊島逸夫の手帖

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2007年金価格下落シナリオ

2006年12月21日

本欄では金価格が上がる話ばかりではなく、下がる話も交えて客観性を保つように心がけている。そこで、今日は、来年、金が下がるとしたらどのような状況が考えられるかまとめてみたい。

まずは、マクロ経済環境を見れば、金にとってもっとも厄介なシナリオは、ずばり"スタグフレーション"であろう。景気後退と平行して物価が上がり、金利も上がる。インフレとデフレの悪いところが同時に進行するケースだ。(Goldilocksの正反対の場合とも云える。)これで潤うセクターはまず考えにくい。株も債券も商品も全員が"負け"のシナリオだ。投資家としては運用などという余計なことは考えずにひたすら耐えるしかない。米国流に云えばカウチポテト(=夜はサッサと家に帰ってポテトチップスかじりながらテレビ見る)に徹することだ。

とくに金利を産まない金にとっては、金利上昇シナリオが天敵である。物価上昇より早いピッチで利上げが続く=実質金利上昇の場合は要注意である。具体的には、バーナンキ率いるFRBがインフレを恐れるあまり金利を引き上げ過ぎるケースであろうか。それでも米景気が減速にとどまり失速さえしなければ、中国、インドの金需要が金価格を支えるという"救い"がある。ところが、"スタグフレーション"となると、その"救い"もない。

それでは、どのような要因がスタグフレーションという事態をもたらすのか。それは、原油高騰が物価上昇を惹き起こすと同時に、消費者マインドにも警戒感を植え付け消費が鈍化する場合であろう。まぁ、天気予報風に云えば、確率は20%程度と思われるが、頭の隅に入れておくべきことではある。

それ以外の下げのシナリオとしては、米軍がイラクから撤退しイラクに平和が訪れる、或いは北朝鮮が歩み寄る等、地政学的要因が本格的に後退する場合。しかし、これは筆者が書くだけでも空虚に感じるほど現実味が薄い。

ドル高のシナリオはどうであろうか。一般的に金はドル安の時にドルの代替通貨として買われる傾向があるのだから、逆にドル高に振れれば金は売られる。2007年はドル安の見方が(筆者を含めて)多いわけだが、市場の大半が同方向を向くと相場は反転するという傾向も否定できない。米国がどれほど"双子の赤字"を積み上げようと、日欧経済が米国以上にヤバイとなれば相対的にドルが上がるのが外為の世界である。或いは、日米金利差が一向に縮小しなければ、やはりドル金利の魅力には勝てないということにもなろう。

とはいえ、利上げサイクルの段階を見れば、米国は8回裏から9回表。対して欧は5回裏くらい。日本はやっと1回表裏が終わった程度。このような市場環境でドル高が長期的に持続することは考えにくいというのが筆者の見方だ。しかし、逆の見解を持つ人達も居ることも事実である。

最後にヘッジファンドなどの投機筋の売りによる下げも無視できないが、これは心配するには及ばない。所詮3ヶ月サイクルで売買を繰り返すゼロサムゲームの世界の売りであるから、その影響も一過性である。

総じて、強弱両サイドの要因を天秤にかければ、7-3で強材料に分ありというのが筆者の見解だが、本稿では"3"の部分にスポットライトを当てて見た次第である。

なお、本日(12月21日)日経CNBCに夕方5時過ぎからナマ出演して来年の金市場について語ります。(再放送は同8時過ぎ)。喋りすぎで喉やられ咳止まらない状況で、お聞き苦しいことになりそうですが、興味があれば見て下さい。

2006年