豊島逸夫の手帖

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BRICS売られる

2007年1月11日

商品市場下落が株式市場では新興国市場の売りに波及している。新興国市場はemerging marketと呼ばれる。めきめき頭角を現すというような意味合いなのだが、いまやsubmerging=沈没市場などと揶揄される始末だ。

外電では商品のmeltdown(溶解)とか、おどろおどろしい言葉が飛び交っているが、最も適切な表現としては、株、債券、商品、通貨のポートフォリオのリバランスという言葉かな。やや多すぎる(と思われる)部分をカットして、やや足りない(と思われる)部分に回すという短期的入れ替えといえようか。

BRICSにしても、ちょっとはしゃぎすぎたかなという反省気分の売りである。あまりにうまく行過ぎたので投資家のリスク感覚が鈍っていた。言い換えれば、蔓延した楽観論への警鐘とも理解できる。この楽観度を測る指標としては、新興国市場債券と米国財務省証券の利回りの格差(スプレッド)が用いられるのだが、これが先々週には過去最低水準を記録していた。

ここで興味深いのは当該新興国政府の対応だ。最近の特徴は、世界的な投資マネーに来て欲しいのはやまやまなのだが、あまりに大挙して来られるとこれも迷惑なのだ。それは、国内過剰流動性を産むこととなり、ひいては資産インフレとかバブルの元凶になりかねない。そうでなくても、ほっておけばマネーは赤字国アメリカからアジア中東の黒字国へ流れる構造だ。だからこそ、中国にしても(最近の例ではタイにしても)防波堤=外資規制を敷いている。

このような状況下では、中央銀行としては、膨れ上がる国内流動性=投資マネーにはできるだけおとなしくしていてほしい。暴れられるとバブルになるから...。そこで国民に「金」を持たせようという発想が生まれるのだ。「金」に投資されたおカネは、他の金融資産と異なり再投資されない。(ゆえに金は不毛の資産と云われるのだが)。ゆえに国民が金を買って長期退蔵するかぎりにおいては、そのおカネが暴れまわることはないのだ。中国人民銀行がしぶしぶながらも金解禁に踏み切り、総裁が国際会議の場で銀行預金に偏在している投資家ポートフォリオの運用多様化のために「金」は望ましいというような発言をする真意がここにある。

ただ、これとて所詮小手先のやり繰りにすぎない。問題の根源は、国際経済不均衡。米国の対外赤字をアジア中東マネーが財務省証券購入というカタチで"当面のツケを払ってやっている"というイビツな構造が是正されなければならぬ。新興国の"旦那衆"だって当面の生活費を貢ぐことはあっても、まさか借金全部引き受けて身請けすることまではゴメンこうむるからね。

外為市場でも"旦那衆"がツケを払っている限りはドル高が続くが、その気が無くなった時点で本格的な為替メカニズムによる調整が始まるだろう。米国という"芸者"の真価はマーケットが決めるのだよ。

2007年