豊島逸夫の手帖

Page320

流動性収縮相場

2007年8月10日

休暇から戻り久し振りの更新。実は今朝11時からテレビ東京のニュースマーケットイレブンに生出演して、今日大証に上場される金価格連動証券について解説する予定だったのだが、昨晩のNY株急落で14日に延期となった次第。

その急落の原因は、相変わらずサブプライムに端を発する債券市場の信用不安問題。昨日はECB(欧州中央銀行)が不安鎮静化のため15兆円相当を緊急供給との報道に揺れた。一昨日はゴールドマンサックスが重大発表かという噂が流れただけでNY株は瞬時に100ドル以上急落する場面もあった。"次はどこか"と市場全体が疑心暗鬼になっている。

冷静に考えれば、流動性の収縮(credit crunch)というより、リスク評価の洗い直し(repricing of risk)と言うべき現象なのだが。(これまでリスクに対してあまりに楽観的に流れていたことへの反省機運。)

なお、サブプライム問題のこれからの注目点はフレディーマックとファニーメイの二大政府系住宅金融機関。ここが住宅ローン債券の買い取りを増やせる状況になれば不安解消につながる。逆にここが買い取った住宅ローン債券の価値が毀損(きそん)すると不安拡大となる。(この問題については昨年の日経マネーのゴールドセミナーにて2007年の注目点として挙げていたので、ご記憶の読者もおられると思う。)

さて、金市場だが、まずはリスク回避のため投機買いポジションの手仕舞いという定石通りの展開。価格レンジとしては650-670ドルなのだが、そのなかでの値動きは荒い。一日で10ドル以上も珍しくない。買っても直ぐ売るという神経質な地合いだ。"真夏の夜の夢"と割り切って、まともに考えないほうがいい。(1週間マーケットから離れて高原の空気を吸っていると、市場の大きな流れが自然に見えるようになり、短期的価格変動に惑わされなくなるものだ。)

その間の気になるニュースは、"中国の核オプション=ドル資産の放出"という報道だ。ポールセン財務長官の中国訪問の際に中国サイドが、"中国製品の輸入規制などに踏み切ったら、当方は手持ちの米国債を大量売却するぞ"という意志をちらつかせたとか、しないとか。北朝鮮流の駆け引きになぞらえた表現である。

ロシアは天然ガス供給を欧州に対する外交の切り札として使い、中国は大量の米国債保有を米国に対するエースカードとして用意するという傾向は、これから強まるだろう。

ドル離れしたマネーの行く先のメニューには金も見え隠れする。サブプライム懸念が一巡したあとのテーマは、やはりドル離れと中国になりそう。

2007年