豊島逸夫の手帖

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28年ぶりの高値更新

2007年9月21日

いやはや、この急騰の継続にはついてゆけないね。

調整売りが19日には出たのだが、全て買いの波に飲み込まれてしまった。まぁ、こんなときに慌てて買うのは新規買いというより、ショートの損切り買い(鉱山会社のヘッジ買戻しが典型だが)とか、オプショントレーダーのパニック買いとか、やむにやまれぬ買いと相場は決まっているものだ。

ただし、そんな内部要因はどうでもいいのだが、上昇の背景には構造的で根深いものがある。必ずしも、行く先を失った投機マネーの逃避だけでは片付けられない奥の深い事情もある。それについては、本欄で繰り返し述べてきたところである。

さて、今朝も3時から起き出して、NY CNBCを見ていた。NYSE、NYMEX、MERCと、NYシカゴの主要取引所のフロアーからの生中継なので、ディーラー上がりの筆者には場の雰囲気が掴めて至極重宝している。2時間ドラマ見るなんぞより、よっぽどエキサイティングであるよ。

株式市場には0.5%利下げ興奮さめやらぬユーフォリア(根拠のない幸福感)が残っているが、債券市場はやや冷めてきた。温度差がある。トップクラスの銀行の流動性確保は問題ないが、中小金融機関の信用収縮は収まらないからだ。

さて、金にも影響ある面白い話題がフロアーでは飛び交っている。

―サウジのドル離れ。ドルペッグを離れ、通貨バスケットに対するぺッグに移行するのではないか。クエイトにも同様の動きが見られる。原油高騰=オイルマネー急増、しかし受け取るドルは急落。分散化を急ぐ中東諸国の気持ちも分かるね。

―英ノーザンロックの取り付け騒ぎの映像は、米国個人投資家にもかなり衝撃的で、米国でもありうること、と心配が始まっている。日本のペイオフ前夜にゴールドラッシュが起こったことと同じ心理なのだね。

―ポールセン財務長官とバーナンキFRB議長が揃って並んで議会証言。フレディーマック、ファニーメイのGSE(これは以前キーワードとして注意を促した言葉。政府援助法人。)のローン買取枠拡大を訴える。これまでGSE2機関はジャンボローンと呼ばれる417,000ドル以上の案件は取り扱えなかったので、これを緩和しろと言う。以前から、サブプライム鎮静化の切り札として利下げとGSEの活用の二つが指摘されてきたので、やるべき手はすべて打ったよ、といいたげだ。

ゴールドマンサックス出身のポールセンのほうが学者バーナンキより強硬な発言だったね。

―そしてドルが対ユーロで遂に1.40の大台突破。米国人は元来、自国通貨の外為レートに無関心なのだが、今回ばかりは違う。米ドルとカナダドルがパー(1:1)になったからだ。日本で繰り返された円高円安のメリットデメリットの議論が、今、米国で新鮮なトピックとして扱われている。米国外へマネーをシフトせよ、との米国FPのアドバスも多い。自国通貨急落を"ugly"と表現するところに大国のプライドが傷つき自嘲気味になっている心理が感じられる。

―0.5%利下げについては、時が経つにつれ、冷静に考えると、原油が80ドル越えているときに0.5%もの利下げを敢行するなぞ、通常であれば正気の沙汰ではないという論調も出てくる。バーナンキがシャンペンのマグナム抜いて流動性をばら撒いてくれた派手なパーティーも終わり、宴の後にインフレの影を見る。その延長線上には、今の株価反騰も所詮"bear market rally"(下げ局面のあやもどし)との見方が浮上する。

―最後にジョージワシントン大学のendowment(基金)運用担当者の話。20年続いたデフレサイクルが終わり、これからメジャーなインフレサイクルに入るとの認識で、financial asset(金融資産)からreal asset(実物資産)へシフトすると公言。こういう発言がテレビで報道される時代になったのだね。筆者がかねてから述べてきた実物資産への回帰現象が追認されたと感じた。

2007年