豊島逸夫の手帖

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基礎的条件は変わらず

2007年3月6日

冒頭にまず強調しておきたいことは、今回の600-690-640ドルという乱高下の過程で、金市場のファンダメンタルズ(基礎的条件)には変化がないことである。

冷静にそのことをふまえたうえで、先週末からの金価格動向を時系列で検証してみると、短期的に相場がエアポケットに入ったようにストーンと下げた時間帯が二つあることが分かる。

まず、3月2日(金)NY時間朝8-9時の寄り付き前後に、660から650へストーン。

マーケットがいきなり650ドル支持ライン攻防に直面という状況を咀嚼(そしゃく)しつつあった同日12時前後の時間帯に、650から640へ二度目のストーン。

これは効いた。エアポケットに連続して遭遇した飛行機は、高度を回復できないまま635まで徐々に降下中だ。

こういうワンツーパンチの結果、何が起きるかというと、660以上の高度に多数の人達が取り残される。特に2回目のエアポケットで、下山するにも梯子はずされてしまった。

昨日もNY時間で640ドルまで反騰局面もあったが、直ぐに売られた。いわゆる下がりっぱなしの塑性パターンだ。(反発する弾性に対する塑性である)。と、まぁ、こう書いてくると救いもないようだが、冷静に考えれば、冒頭に述べたごとく基礎的条件は変わっていない。

投資家の売買パターンも、これまでは、fire saleだったが、これから徐々に、bargain saleが始まる。ファイアセールという言葉は、先週来、NYの連中が流動化のため資産売却に走る状況でしきりに使っている。火事などの被災で、手持ち資産を売却してしのぐというニュアンスだ。これに対して、バーゲンセールというのは、普通の投資家が安値に群がる様子である。特に690ドルという高値を見たあとゆえ、見る人によっては、割安感が感じられる。

NY株もチャイナショックが落ち着けば、fire saleからbargain saleへと言われる。ここでもポイントは株式市場を取り巻く基礎的条件が変わっていないということだ。

昨晩のNY市場最大の話題は、ニューセンチュリーというサブプライム専門の最大手機関の株が50%以上も暴落したこと。不正行為発覚とのことだ。(同社については本欄2月9日「米住宅市場の異変の兆し」参照)。いよいよ mortgage meltdown=住宅金融市場破綻か、などと語られている。ただし、サブプライムは住宅ローン全体の(アナリストにより数字は異なるが)10-20%程度のシェアに過ぎないとの楽観論も根強い。

なお、今回の株安連鎖の過程で、金が買われず売られたことで金の輝きが失せたという論調も多い。これは近視眼的な見方というほかない。単に突出して派手な投機的買いの部分が剥落(はくらく)したことしか目に入らず、アジアマネー、オイルマネー、年金マネーなど、深く静かに進行する「趨勢的ドル離れ金買い」の潮流が見えていないからだ。ドル安、金安の同時進行にしても円キャリー巻き戻しという共通のベクトルに起因する現象である。もう少し金について勉強してからコメントしてほしいと強く思う。

2007年