豊島逸夫の手帖

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価格下落を願う鉱山会社

2007年3月13日

供給サイドの要因というのは、派手にマーケットを揺らすようなインパクトはないが、ボディーブローのようにジワッと効く。

昨日は、ペルー最大の金鉱山ブエナベントゥラ社が、ヘッジ売りポジションの四分の一=483,000オンス=16トン弱を買い戻したと発表。このように五月雨(さみだれ)式にヘッジの買戻しが続いており、特に価格急落時に集中する傾向もあることから、相場の下支え要因となっている。

一般的に鉱山会社のヘッジについては、価格が急騰すれば新規ヘッジ売り増加という売り材料となり、価格が急落すると"やれやれ"というヘッジ買戻しが出て買い材料となる傾向がある。

しかし、前者の新規ヘッジとなると、まだまだ"ヘッジ売り"という言葉が鉱山業界ではdirty word=忌み言葉とされるほどにタブー視されているのが現状だ。例えば、大手金鉱山会社の株主総会では、CEOが株主から"なんでヘッジ売りなどと余計なことをして、我々から金価格上昇のメリット享受の機会を奪うのだ"と吊るし上げられる。あるいは、コンファレンスコール(電話会議)によるアナリストミーティングの質疑応答で最初に出る質問が、"御社のヘッジポリシーは?""なんでまだこんなにヘッジ売りポジションが残っているのか?"挙句の果てに、ヘッジ売りが多く残る会社の株が売られる。

また、筆者の友人で大手金鉱山のヘッジ売り責任者は、毎日毎晩相場とニラメッコというストレス連続の日常に呻吟(しんぎん)している。価格が急騰すると頬もこけ、ゲッソリして可哀相なほど。先物で安く売ってしまったポジションの整理に追われているのだ。"Jeff(筆者のニックネーム)、価格が何とか500ドルまで下がってくれないかねぇ..."だと。

こういう光景に頻繁に出くわす筆者から見ると、ヘッジ売り復活の日は未だ遠いと言わざるを得ない。数年前から金価格1000ドル説を唱えている大手鉱山CEOもいるから、ヘッジ売り=dirty wordの状況は当分続くであろう。

長期保有の立場からは、"ヘッジ"ファンドのゼロサムゲームの世界より、"ヘッジ"売りの世界のほうが地味だが持続性があり注目すべき要因である。

2007年