豊島逸夫の手帖

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これからどうなる、金市場

2007年4月17日

最近になって本欄を読み始めた読者も多いようなので、今回は初心者のために今の金市場を見る勘所をまとめてみます。

NY金価格は700ドルに迫り、国内も21年ぶりの高値。そこで湧く素朴な疑問は、そんな高値でいったい誰が買うの?ということ。

たしかに日本国内の店頭では投資家の利益確定売りが支配的です。でも、それは日本だけの話。海外では新規買いが次々に出てきます。その最たる例が欧米の年金基金による金買いでしょう。金ETFという新たな商品を通じて、すでに中国の年間需要2年分を超す金を買い上げました。でも、それとてまだ始まったばかり。まだ、カルパースなどの大手年金参入などの本番はこれからです。

チャイナマネーやロシアを含むオイルマネーの金買いも、じつはこれからが本番。中国では、これまでがんじがらめに規制されていた民間の金売買が段階的に自由化されている最中です。しかも、政府部門では外貨準備が1兆ドルを超したと思ったら、あっというまに1兆2000億ドルへ急増。問題は、その6割以上が米ドルということです。いかにもドルに偏ったポートフォリオ構成なので、そのリバランスというかドル以外の資産へのマネーシフトが、"これから"起こる前夜という状況なのです。ドル保有が膨れ上がっていよいよ"臨界点"に近づきつつあるとも言えましょうか。

その動きを先取りするかのように、外為市場では、ドルが売られユーロが買われています。ポンドも豪ドルも同様に"非ドル通貨"ということで分散投資の対象になっています。実質ゼロ金利が続く円以外の"非ドル通貨"が、ほとんど皆買われているとも言えるでしょう。その結果としての円安が、これまた国内金価格上昇を加速させている面もあります。

そして金もグローバルに目を転じれば、"非ドル通貨"の一選択肢として買われている。金という"通貨"は金利を産みませんが、無国籍という便利な点もあるのです。発行国の財政赤字とかカントリーリスクには影響されない独自の価値を持つということです。中国やロシアはドルやユーロの経済圏=傘の下には入りたくないという政治的配慮もあり、無国籍通貨というのは便利な存在といえます。

ちなみに、金利を産まないというデメリットも"金利"を不労所得として認めないイスラム金融の世界では これまた便利なポイントなのです。そもそも中東とかインド、中国は、どこも文化的に金選好度が強い国々ですしね。これらの地域に旅行された人なら肌で感じたことだと思いますが。

このように欧米年金マネーもチャイナマネーもオイルマネーも、これからいよいよ本格的な金買いの段階に入る前夜という状況です。それに対して、金の生産量はほとんど増えてこない。そこで、新たな需給の見合う適正価格をマーケットが模索中です。

600ドルはもはや"安すぎる"ということが昨年来の展開で確認されました。そこで700ドルはどうか、というトライアルが現在進行中です。おそらく今年一年かけて700ドルも"安すぎる"という感覚が定着するのでしょう。

でも、それは一筋縄では行かない。そんなおいしい話があれば、ヘッジファンドなどの投機筋が黙って見ているはずがありませんから。当然、"買っては売って"を数ヶ月単位で繰り返し、なんとか売買差益を稼ぎ、出資者に還元しようと派手に参入しています。今年も世界連鎖株安をはさんで第一ラウンドがすでに終了し、いまや第二ラウンドが始まったところです。

でも、彼らが一服して短期売買の手を休めたときの、つまりラウンド間のインターバル時の価格水準は徐々に上がってきています。それは、先述の年金マネーとかアジアマネー、オイルマネーが短期売買ではなく、長期保有目的で一貫して金を買い上げてきているからです。

ヘッジファンドは買って売っての"ゼロサムゲーム"。対して年金などは買いっぱなしですからマーケットにはボディーブローのようにジワジワ効きます。それでは、上昇する金価格に死角はないのか。この点については、4月10日付け本欄"2007年金価格下落シナリオ"に詳述しましたから、そちらをご覧ください。

一般個人の立場では、昨晩のNYが上がったとか下がったとかに一喜一憂せずに、冷静に長期トレンドを見据えることが肝要です。

2007年