2007年11月6日
ジゼル ブンチェンといえば、Vogueなどのファッション誌の表紙を飾り、デカプリオと浮名を流したりで女性に人気のスーパーモデルである。さらに"世界で最もリッチな"という形容詞もつく。個人保有資産額180億円とか。その彼女がP&Gとの契約のギャラを、ドル建てからユーロ建てに変更要求したのだそうだ。今の、欧米市場のドル離れを象徴する出来事として、米経済ニュースで報道されていた。"new currency model"だと。
たしかに、今回のドル安の特徴は、外為市場とか自国通貨の価値についての感覚が薄いアメリカ人個人投資家までが、"ドル離れ"を始めたことであろう。彼らにとってはカナダドルが最も身近な"外貨投資"である。NY株でも海外収益比率の高い多国籍企業が買われている。
金の世界でも、金ETFの買い手として、最近では年金以上に米国人富裕層が目立つ。従来、米国人個人投資家は金に無関心であった。せいぜい先物を少し。地金を保有するという発想は無かった。それが、ETFという現物の裏づけのある上場有価証券となると、"金アレルギー"を持たずに素直に買っている。しかも、本当の米国富裕層の保有資産額は機関投資家並みである。本当の金持ちは700ドルだろうが800ドルだろうが大局観でポンと買うだけの余裕がある。買った後はbuy and forget。このような長期保有の新規参入組が市場の裾野を拡げていることが、800ドル乗せの背景にはあるのだ。
さて、金市場も含めマーケット全体の話題は引き続き、金融不安。シティーとメリルという米国を代表する証券金融機関のトップが相次いで引責辞任。とくにサブプライム関連損失額の"気配値"(実際に売買は成立していないゆえに)が、両社ともに数週間で数千億円の単位で増えてゆく。昨日のNYでは唯一騒ぎに巻き込まれずに評価されていたゴールドマンサックスの株までが"風評"で急落。
金融不安、株安、ドル安、金高という金の"市況の法則"どおりの展開となっている。とくに商品分野で金の上げが目立つのは、金のみが"通貨=マネー"としての二面性を持つからであろう。2006年1月5日付け本欄で"weight of money"(おカネの重み)という話をした。たとえば、1500兆円の日本人個人金融資産の0.1%が金市場に流入しても、500トンという中国の年間需要2年分の数字になる。そうなると到底考えられないような(当時では1000ドルというような)価格水準が現実のものになる、と書いた。当時の筆者は懐疑的であったが、その後の展開は想像を遥かに超えていた。
なお、新たな地政学的要因としてパキスタンという材料が浮上。同国は原油輸入国であるが、2006年7月12日本欄に"要注意"と述べたほどに地政学的には重要な位置にある。西のトルコ、東のパキスタンと中東の火薬庫は拡がるばかりである。ただし、地政学的材料は一過性。対してドル離れ現象は構造的な長期的材料である。