2007年12月6日
筆者はスイス銀行時代にプラチナでずいぶんと儲けさせてもらった。同行を退職するときにも、"自己都合退職"にもかかわらず、銀行が記念にとプラチナのノーブルというコインをくれた。日経本紙の"私の思い出の品"というコラムに登場したときにも、そのノーブルコインを持ち、プラチナに対する個人的思い入れを語ったものだ。しかしながら、ディーラーとしては儲かったのだが、その反対サイドに立つ個人投資家の立場からは、そうとも言えないことも事実。
客観的に金と比較するとプラチナには以下の特徴がある。
市場規模が金の1/20ゆえ、希少性がある。同時に、市場の流動性も極端に少ないから、価格変動性もハンパではない。ETFとか鉱山ストライキとか代替技術開発などの単発的材料で、派手に価格が乱高下する。筆者も心臓が飛び出るような経験を頻繁に味わった。(すぐにストップ安になるから、裏目に出た時、容易に逃げられないのだ。不整脈を発症したのも、そのせいかも...)。相場の旨みという意味では先物に向いており、プロ好みではある。今発売中の若者向け週刊誌SPAのマネー別冊は先物プラチナ空売りを推奨していた。リースレート(プラチナ現物の貸借取引)も高いから、現物の在庫を持つ業界のディーラーには"おいしい"メタルでもある。(1ヶ月もの3.74%、6ヶ月もの5.29%、1年もの5.18%)。プロに"おいしい"商品にはギョーカイの応援団もつく。
メタルの特質としての最大の相違点は、金は商品と通貨(マネー)の二面性を持つのに対し、プラチナはあくまで商品(産業用メタル)であること。ゆえに、金はドルとかサブプライム信用不安に敏感に反応するが、プラチナは景気の影響が大きい。
プラチナの需要構造は、自動車排ガス清浄化触媒に大きく依存する。ゆえに、ある日起きたらノーベル賞ものの画期的代替ハイテク技術が開発され、需要構造がひっくり返っていたというような状況もありうる。ゆえに、長期に資産保全として個人投資家が保有するには心配が残る。価格が上がり、儲かったら、サッサと利食うに限る。(これ元プラチナディーラーでもある筆者の実感)。
金の需要構造は、商品としては宝飾とハイテク。この分野では古代エジプトの時代から続く、女性の身を飾りたいという欲望がこの世からなくならない限り、年ごとの短期的変動はあっても、需要の長期的下支え要因として働く。(男性のアナリストにはこの女性心理が分かっていない野暮な輩も多いが...)。ただし、価格形成においては、GFMS統計には表れない日々の金融商品(マネーとしての金)としての売買の傾向のほうが遥かに強い要因だ。
昨日の福岡セミナーでもプラチナについての質問が出た。質問者が普通の個人投資家であれば、長期資産保全としては薦められないが、先物OKという中級者には、健全な"投機"対象としてOKというのがアドバイザーとしての筆者の答えである。
でも、個人的には、あのノーブルコインは宝物。絶対売る気もない。やっぱり筆者はプラチナも好きである。好き嫌いと投資適格不適格は別問題ということか...。