2007年4月10日
本稿は2006年12月21日付け本欄原稿のアップデートである。前回の原稿をそのまま引用し、括弧内に最新コメントを加える。
本欄では金価格が上がる話ばかりではなく、下がる話も交えて客観性を保つように心がけている。そこで、今日は、来年、金が下がるとしたらどのような状況が考えられるかまとめてみたい。
まずは、マクロ経済環境を見れば、金にとってもっとも厄介なシナリオは、ずばり"スタグフレーション"(注.不況下のインフレ。なお今朝4月10日の日経朝刊3面にもエコノミストのSワードという形で論じられている)であろう。景気後退と平行して物価が上がり、金利も上がる。インフレとデフレの悪いところが同時に進行するケースだ。Goldilocksの正反対の場合とも云える。これで潤うセクターはまず考えにくい。株も債券も商品も全員が"負け"のシナリオだ。投資家としては運用などという余計なことは考えずにひたすら耐えるしかない。米国流に云えばカウチポテトに徹して、夜はサッサと家に帰ってポテトチップスかじりながらテレビ見ることだ。
とくに金利を産まない金にとっては、金利上昇シナリオが天敵である。物価上昇より早いピッチで利上げが続く=実質金利上昇の場合は要注意である。具体的には、バーナンキ率いるFRBがインフレを恐れるあまり金利を引き上げ過ぎるケースであろうか。(この部分は、最新時点では利下げの有無に議論の焦点が移っている。)それでも米景気が減速にとどまり失速さえしなければ、中国、インドの金需要が金価格を支えるという"救い"がある。ところが、"スタグフレーション"となると、その"救い"もない。
それでは、どのような要因がスタグフレーションという事態をもたらすのか。それは、原油高騰が物価上昇を惹き起こすと同時に、消費者マインドにも警戒感を植え付け消費が鈍化する場合であろう。まぁ、天気予報風に云えば、確率は20%程度と思われるが、頭の隅に入れておくべきことではある。(この確率についての筆者の見方は変わっていない。なお、今朝の日経新聞の記事では、第一次石油ショック時のような激しさはないが、という条件付きで語られている。)
それ以外の下げのシナリオとしては、米軍がイラクから撤退しイラクに平和が訪れる、あるいは、北朝鮮が歩み寄る等、地政学的要因が本格的に後退する場合。しかし、これは筆者が書くだけでも空虚に感じるほど現実味が薄い。(最新の地政学的要因の焦点はイランに移行した感あり。北朝鮮は歩み寄らず米国が歩み寄ったようだが...)
ドル高のシナリオはどうであろうか。一般的に金はドル安の時にドルの代替通貨として買われる傾向があるのだから、逆にドル高に振れれば金は売られる。(直近では、円キャリーによる金買いの影響で、このセオリーどおりに連関しないケースも頻繁に見られる。しかし、長期的にはセオリーどおりの関係に収れんしよう。)2007年は筆者を含めてドル安の見方が多いわけだが、市場の大半が同方向を向くと相場は反転するという傾向も否定できない。米国がどれほど"双子の赤字"を積み上げようと、日欧経済が米国以上にヤバイとなれば相対的にドルが上がるのが外為の世界である。あるいは、日米金利差が一向に縮小しなければ、やはりドル金利の魅力には勝てないということにもなろう。
とはいえ、利上げサイクルの段階を見れば、米国は8回裏から9回表。対して欧は5回裏くらい。日本はやっと1回表裏が終わった程度。このような市場環境でドル高が長期的に持続することは考えにくいというのが筆者の見方だ。しかし、逆の見解を持つ人達もいることも事実である。(結果がとくに対円でドル高と出たことは周知の通り。しかし、長期的には構造要因が金利差要因を上回ろうという筆者の見方は変わっていない。世界の投資家の本音もドル買いでとりあえずリターンを稼ぐが、赤字体質のドルは長期保有できる通貨ではない というものだろう。ドル相場も対ユーロではドル高、ドル安まちまちである。米国経済の実態も、バブル紳士みたいなもので、一見羽振りは良いが、台所は借金だらけである。)
最後にヘッジファンドなどの投機筋の売りによる下げも無視できないが、これは心配するには及ばない。しょせん3ヶ月サイクルで売買を繰り返すゼロサムゲームの世界の売りであるから、その影響も一過性である。(これはまさに上海発世界同時株安後に起こった現象である。)
総じて、強弱両サイドの要因を天秤にかければ、7-3で強材料に分ありというのが筆者の見解だが、本稿では"3"の部分にスポットライトを当てて見た次第である。