豊島逸夫の手帖

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ヘッジファンド破綻の実態

2007年10月22日

米ビジネスウイーク誌10月22日号は、今回のサブプライムショックのきっかけになったベアスターンズ傘下のヘッジファンド破綻の実態を告発記事風に詳細に伝えている。

思い起こせば2月9日の本欄でさきがけてサブプライムという"新語"を紹介し、3月22日時点で既にCDO(多数債権プール型資産担保証券)がやばいと警告したのも、元はNYやシカゴのフロアーの友人たちからの情報だった。それがこういうことだったのかと いちいち納得させられる事の顛末である。

まず、2月には、同ファンドの一部の出資者が騒ぎ出し、それに対して"噂など心配するな。きっちり儲けて見せるから"と胴元のカリスマディーラー チオフィ氏が大見得を切っている。

問題その1:
ファンドの60%の資産評価が同氏のチーム自身で行われていた。Fair valueというシステムなのだが、売買の流動性が極端に少ないため、マーケットで妥当な価値基準もなく、胴元自身が妥当と思う評価(fair value)をする以外、方法がないのだ。
同ファンドの会計監査担当デロイトは、"この評価法は、マーケットの実際の価値から甚だしく乖離(かいり)する可能性あり"と警告していた。それが出資者(全員ではなかった)に届いたのは解約凍結宣言2週間前であったという。

問題その2:
市場で売買量の薄いハイイールド債券(信用リスクが高い投資不適格債)を買い漁って実績を上げたのだが、その手の債券を買えば買うほどイールドは下がるから、実績を維持するためには、さらに買い続けねばならない。その結果、ますます当該債券のイールドは低下する。"食べれば食べるほど、もっと食べないと満腹感を感じない"という症状。
この自転車操業には当然資金が必要だ。そこでメリルリンチ、ゴールドマンサックス、バンクオブアメリカ、JPモルガンが総額1兆7千億円相当もの融資を実行した。さらに低金利の融資に対しては、即日返済要求出来る条項を呑んだという。
レバレッジも最も極端な例では、1ドルの出資に対し、60ドルの投資があった。
そしてファンドのキャッシュポジションは僅か1%。(通常は有事に備え10%は現金を準備しておく。)
そのファンドの名称が"High Grade"ハイグレードというのだから笑止。

問題その3:
バークレイズとの密約。同銀行は融資にあたり、同ファンドの唯一の"株主"に任命された。一般出資者は単なるステークホルダーで所有権は一切無かった。そして同銀行が手を引いたことが"最後の一撃"となった。

問題その4:
サブプライム保有のCDOに多く投資したわけだが、その手のCDOに投資するCDOなどにも手を広げていた。その一部は商品の登録、届出など見当たらないという。(これも筆者が聞き及び6月29日付け"流動性の収縮"でCDOのCDOもあると書いたことゆえ、やっぱりという感じ。)

問題その5:
同氏の得た報酬は"投資収益"の20%と、運用純資産の2%。自分で運用資産評価して、これだけもらえる仕組みだ。

ビジネスウイーク誌は、LTCM(ロング ターム キャピタル マネジメント)とも比較して、こう述べている。"LTCMはノーベル賞受賞教授が作ったモデルをベースにして、理論は誤っていなかったが、商品の仕組みがあまりに複雑すぎて破綻した。対してベアスターンズ社のケースは危機管理モデルも無く、チオフィ氏は単なるデートレーダーに過ぎない。"
そして投資家の心理を次のようの代弁している。
"ベアスターンズ社はウオール街の老舗。これから投資家は何を信じたらいいのか?"

その答えのひとつとして、投資家は実物資産=金を考え始めたのだろう。(断っておくが、あくまでひとつの選択肢としてだよ。)

さて、先週土曜日にはWGC単独主催のゴールドセミナーが開催され、200名の聴衆の静かな熱気がひしひし伝わってきました。抽選に漏れた200名以上の方にはゴメンナサイ。12月に第二弾計画します。なお、飛び入りでNHKニュースの取材も入り(新たな社会現象ということで)、11月7日の"ゆうどきネットワーク"(午後5時15分から6時。北海道と大阪除く全国生放送)にて紹介されます。"暖かくて、楽しくて、ちょっとためになる"という番組趣旨ゆえ、投資の観点というよりは、金が今なぜ注目されているのか、主婦やサラリーマンたちの声を拾ってゆくという構成のようです。金がお茶の間の明るい話題になることは筆者としても大歓迎で望むところです。

なお、明後日24日(水曜日)、テレビ東京系列朝9時からのモーニングベルにも生出演します。こちらは初心者向け金投資講座です。

2007年