2007年2月20日
相場が670ドルまで来ると、700ドルも目と鼻の先という感じもするが、そうすんなりとはいかない。ここから700ドルへはなんらかのサプライズ(相場に織り込まれていないビックリ要因)が必要である。
想像力を逞しくして考えてみると、ロシア、中東諸国などの公的金購入発表、大手鉱山会社同士のビックリM&A(それによる大型ヘッジ買戻し)、米住宅市場信用不安=危機回避のためのFRB緊急利下げ、大手年金基金の金購入、そして原油高騰再燃(ホルムズ海峡封鎖)などが筆者の頭には浮かぶ。
特に、最後の原油に関連してイラン情勢が気になる。
先週のロンドンエコノミスト誌(2月16日号)の表紙は、米ステルス戦闘機。見出しはNext stop Iran? これが、タブロイド紙なら"またか"と気にもならないが、最も硬派で真面目な同誌の記事ゆえ、注目に値する。
内容は、米国(あるいはイスラエル)のイラン軍事攻撃の可能性に切迫感ありというもの。その理由は、国内でイラク対応を巡り集中砲火を浴びているブッシュ。中東情勢混沌の根源はブッシュ失策にあらず、核保有の道を歩むイランにあり、イランを叩けば中東に民主主義定着というブッシュの"高邁な"構想も実現に近づくという議論で軍事介入を正当化するかもしれないというシナリオだ。
レームダック(※)の大統領にとって、残る任期2年に最も気になることは、後世の歴史教科書に己の名前が如何に記述されるかということ。このままでは、"ベトナム戦争を超える米国外交史上最悪の失態"で終わってしまう。最後の賭けで、ただでさえ引き金引きたがる性格ゆえ、先制攻撃のボタンをプッシュするかもしれないとの危惧である。ほっておけば何やらかすか分からん国ゆえ早いところ芽を摘むべし、という発想に対する危惧でもある。(ホワイトハウスは一貫して"ありえない"と否定するが、公定歩合と開戦だけは当日まで真意が秘されるというもの定説だ。)
もう一つの可能性がイスラエルによる先制攻撃。こちらは、ホロコーストは無かったと主張するイラン大統領により"世界地図から抹消する"と宣言された国である。
更に、そのイスラエルの隣国サウジアラビア、エジプトにしてみれば、反対側の隣国イランが核保有となれば、心中穏やかではなかろう。両側の隣国同士が喧嘩して頭の上をミサイルが飛び交うイメージである。そうならないように懸命の外交努力が続けられているわけだが...。
さて、思い起こせば、27年前、金価格が史上最高値をつけたときも、決め手はイラン情勢緊迫化であった。27年後の金市場は遥かに複雑化しており、単純な比較はできない。しかし、歴史は繰り返すという格言もある。今朝もCNNはイラン海軍がホルムズ海峡にて活動拡大との報道を流していた。
なお、個人投資家の皆さんにはイラク開戦のときの教訓を改めて記しておく。当時、イラク開戦必至とみた金市場のプロは、3ヶ月前から金を買い始め、金価格は急騰。そして、いざ開戦の当日から金価格は急反落。プロの利益確定売りの波である。"噂で買ってニュースで売れ"の典型。可哀相なのは、開戦直後"有事の金"と踊らされて金買った個人投資家であった。まぁ、塩漬けしておけば2年後には高値更新となったわけだが、それはあくまで結果論。その間 眠れない夜もあったろう。有事の金というのは(韓国国民がアジア経済危機の際に金供出して外貨調達したごとく)、有事に金を売って危機を凌ぐという発想なのだということを忘れないでほしい。そうなるまえに普段からこつこつ蓄えてゆくものが金と心得ること。
※ | 欧米の政治用語で、再選のない状態で残りの任期を務めている大統領や議員を指す。米国大統領の任期は最長2期8年と決まっていることから、2期目の後半に差し掛かった大統領は、おおむね統率力が減退する。そのため「レームダック状態にある大統領」という言い方をされたりする。ちょうど現在のブッシュ大統領が、その状態にある。原義は、lame duck すなわち、足のなえたアヒル、あるいは足の不自由なアヒルを意味する。 |