豊島逸夫の手帖

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巨大ファンドのIPO

2007年6月22日

昨晩のウオール街は、資産総額11兆円の最大投資ファンド、ブラックストーンIPOの話題でもちきり。一般メディアまでが、このIPOを買えば大儲けなどとはしゃいでいる。"前宣伝"は充分すぎるほどだった。

まずはブラックストーンに中国が30億ドル出資。いよいよ1兆2千億ドルの世界最大外貨準備資産が運用多様化に向け動き始めた。米国債中心の運用からの脱皮ということで、長期債急落騒動のきっかけともなった。そして、ファンドの胴元の個人資産が1兆円近くに膨れ上がったとの報道。一般個人には縁遠い話と思われたところで、IPO。このおいしそうな話に個人も乗れる道が開けた、というわけだ。こうなると投資家としても"金"の儲けをブラックストーンにつぎ込むというわけでもなかろうが、金は売られた。世界同時株高も進行中である。株と金の逆相関という"市況の法則"が最近では珍しく当てはまる例か。

なお、ファンド関連では、サブプライム投資を売り物にしてきたヘッジファンド行き詰まりのニュースもマーケットを賑わせている。住宅金融関連分野を得意とするベアースターンズ社が10ヶ月前に立ち上げたサブプライムに特化して運用するファンドである。この分野のカリスマファンドマネージャー(チオッフィ氏)を旗頭に、あえてこの"やばい"セクターのどさくさに乗じて一儲けを目論んだのだ。ベアースターンズ社とチオッフィ氏のコラボなら大丈夫と判断した大手投資銀行が、90億ドルを融資。そのリストにはシティーグループ、ドイツ銀行、クレディースイス、バンクオブアメリカ、バーククレーズ、メリル、JPモルガンとそうそうたる名前が並ぶ。投資手法はCDO。と聞いて、ピンときた読者も多いはず。そう、3月22日づけ本欄で、サブプライム問題の今後の注意点として述べた資産担保証券である。要は、福袋の発想で、玉石混交の住宅ローン債券をミックスし有価証券化した商品。たしかにリスクは分散され、うまくゆけば大当たりもあり得る。でも、今回は、さすがのカリスマも力及ばず。4月にパフォーマンスが7%減と発表。さらにベアースターンズ社は損失が20%以上と認めるに至り、マーケットが動揺した。間髪入れず先述の銀行群が同ファンドから差し押さえた物件のファイアセール(叩き売り)を開始。

まぁ、冷静に見れば、この程度のファンドの損失ならマーケット全体が揺らぐことはないが、例の長期金利急騰ショックからようやく立ち直ったばかりの"病み上がり"市場にとって心理的ダメージは大きい。

絶頂を極めるブラックストーン。その陰で消え行くファンドもあり。相変わらず浮き沈みの激しい業界ではある。この種のマネーが金市場にも流入していることは間違いない。でもこういうカネの流れはアテにならない。現状は、この部分が金市場から引き揚げたところ。NY先物金市場買い残が98.6トンも急減し、236.1トンとなっている(先週末発表時点)。これは最近では非常に地合いが軽くなったといえよう。特に空売りも混じっているので ショートカバーが入りやすい地合いともいえる。

ブラックストーンの一攫千金の夢。投機買いが振り落とされた金市場。貴方ならどちらを選ぶ?

2007年